研究課題/領域番号 |
21K07195
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
後藤 信治 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (50186889)
|
研究分担者 |
李 桃生 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50379997)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | がん / ミトコンドリア / カルシウムイオン / エネルギー代謝 / 酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
がんは、栄養環境の変化に適応したがん特有のエネルギー代謝を行う。その代謝経路は複数判明していてがん治療の標的として有望であるが、依然として治療応用への壁は高い。申請者は、それぞれ別々のエネルギー代謝に関与しているミトコンドリア内の三種の酵素が、カルシウムイオンで活性化することに着目し、ミトコンドリアへのカルシウムイオンの流入阻害により、異なる代謝経路に依存するがんでも増殖抑制や細胞死が誘導できると予想した。本研究により、ミトコンドリアカルシウムイオンが、複数のがん特有の代謝に影響する共通の因子であることが明らかになれば、エネルギー代謝をがん治療の標的とする新たな研究の展開が期待される。
|
研究実績の概要 |
ミトコンドリアCa2+が、がん特有の代謝の共通のマスターレギュレーターであるか否かを明らかにし、その動態制御が、がんの増殖・生存を抑制するか否かを検証することが本研究の目的である。 令和4年度は、PANC-1を用いて解糖系とグルタミノリシスを対象に研究を進めた。有酸素グルコース存在の条件下において、ミトコンドリアCa2+ユニポーターの阻害剤であるルテニウム360の存在下非存在下でPANC-1を培養したが、ルテニウム360の有無は細胞の増殖には影響を与えなかった。また、ルテニウム360の存在下で抗がん剤を投与しても薬剤の殺細胞効果が増強することはなかった。これは、PANC-1が、有酸素グルコース存在の条件下においては、主にエネルギー代謝を解糖系に依存し、ミトコンドリアCa2+の低下がエネルギー代謝に影響しないことを示していると思われる。 一方、無グルコースや低グルタミン栄養の条件下で培養し、エネルギー代謝をグルタミノリシスに依存する状態に誘導する際に、ルテニウム360を培地に加え、ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害して解析を行った。さらに、PANC-1に抗がん剤を投与し、ミトコンドリアCa2+の動態を解析すると共に、ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害した場合に、放射線や抗がん剤の効果が増強されるかを解析した。グルタミノリシスにおいて、グルタミン酸脱水素酵素1(GLUD1)の発現抑制は細胞の増殖を著しく低下させることが報告されているが、本研究においても同様の結果を得た。siRNA投与によるα-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体(KGDHC)の発現抑制も (GLUD1)と同程度の効果を発揮した。ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害した場合は、GLUD1や KGDHCの発現抑制よりも効果は低下したが、細胞の増殖を抑制すると共に、放射線や抗がん剤の増殖抑制効果を増強した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度において主に実験に用いたPANC-1は、当初の申請時の実験計画ではフマル酸呼吸モデルとして用いる予定であったが、グルコースが豊富にある栄養条件では解糖系に依存するものの、有酸素低栄養時にはグルタミノリシスを行うことが明らかになった。そのため、酸素の存在や栄養状態の変化によって三種類の代謝(解糖系、グルタミノリシス、フマル酸呼吸)を使い分ける、同一のがん細胞を用いてそれぞれの代謝を解析することは、研究計画の特性から考えると非常に有効であるという結論に至った。そこで、令和4年度は、当初の計画を変更してPANC-1の解糖系とグルタミノリシスを中心に研究を進め、フマル酸呼吸に関する研究はその後に進めることとした。その為、フマル酸呼吸に関する研究が令和4年度中には終了しなかったので、令和5年度に一部の研究を繰り延ばし、マウス結腸がん細胞株Colon-26を用いる酢酸代謝の解析の一部も併せて令和5年度に繰り延ばしたため、当初の研究計画の遂行がやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
PANC-1を用いた研究においては、リンゴ酸酵素(ME)がフマル酸呼吸の代謝系でのATP産生にどう影響するのかを明らかにすると共に、これらを抑制した場合の細胞への影響について解析する。 また、既報(Cancer Sci.2009,Yoshii et al)に従い、マウス結腸がん細胞株Colon-26を酢酸代謝モデルとして用い以下の実験を行う。Colon-26細胞を通常の酸素濃度(20% O2)と低酸素(1.0% O2)で培養し以下の解析を行う。DNA合成能と細胞周期は、細胞にBrdUを取込ませ7-AADで標識した後、フローサイトメーターで解析する。酵素の発現量は、特異抗体を用いたウエスタンブロット法で解析する。細胞質とミトコンドリアCa2+は、Fluo4-AMとRhod2-AMをそれぞれ用い、フローサイトメーターと蛍光マイクロプレートリーダーで解析する。ミトコンドリアCa2+ユニポーターの阻害剤としては、これまでと同様にルテニウム360を用いる。代謝モデル細胞にγ 線照射や抗がん剤投与を行い、ミトコンドリアCa2+の動態を解析する。また、ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害した場合に、放射線や抗がん剤の効果が増強されるか解析する。
|