研究課題
基盤研究(C)
胃癌に対する術前化学療法 (NAC) は限られた症例に対して有効性が示されているものの、治療抵抗性を示す症例も存在する。本研究ではDrop-Seq技術を基盤としたsingle cell RNA-sequence (scRNA-seq) を用いてNAC施行群とNAC非施行群の胃癌切除症例を比較する。NAC施行の有無に注目し免疫微小環境中のB細胞subsetの変動を明らかにすることで、これまで見出せなかった発癌・治療抵抗性に関わる新規のB細胞subsetや微小環境中の細胞相互作用を同定する。さらにその機序に基づく新たな治療法の開発を目標とする。
胃癌は癌死因の世界第3位であり、罹患率・死亡数は依然として高い。近年、免疫チェックポイント阻害薬は癌治療に革命をもたらしたが、依然として胃癌の治療抵抗性の克服は重要な課題である。近年、1細胞毎の網羅的遺伝子発現解析を行うシングルセルRNAシーケシング(scRNA-seq)による腫瘍免疫微小環境の解明が進んでおり、胃癌においても癌細胞や免疫細胞に多様性や不均一性があることが報告された。本研究は腫瘍浸潤B細胞が抗腫瘍免疫において重要な役割を果たしている可能性があるという知見から、術前化学療法(NAC)を施行した胃癌TMEに存在するB細胞のheterogenietyとその変動に着目した。当科で胃切除術を施行した胃癌症例から採取した腫瘍部と非癌部を対象とし、B細胞のsubsetや機能関連遺伝子をscRNA-seqを用いて評価した。その結果、B細胞には未熟性B細胞、活性化B細胞、メモリーB細胞といったheterogeneityを明らかにし、胃癌部では抗体依存性細胞障害性作用に関わる形質細胞のIgG関連遺伝子発現が非癌部と比較して有意に高値であった。次に胃癌と同様の上部消化管癌である食道癌浸潤B細胞について評価したところ、化学療法後に共刺激やCD40シグナルが亢進していた。また、腫瘍浸潤抗体産生細胞の割合は、遊走能の低下とともに増加し、抗体産生細胞の抗体産生関連遺伝子の発現は化学療法後に上昇していた。近年、B細胞は腫瘍局所で3次リンパ濾胞を形成し、CD8陽性T細胞の機能活性を促進することが報告されており、CD8陽性T細胞の発現についても評価した。化学療法を施行した胃癌症例ではCD8陽性T細胞のCTLA4の発現が未治療症例やNivolumab治療症例よりも高かったが、LAG3はNivolumab症例で発現が低かった。このことから、治療により標的となり得る免疫チェックポイント分子が異なる可能性が示唆された。今後、NACにより変動するB細胞の機能とCD8陽性T細胞との相互作用について検討する予定である。
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