研究課題
基盤研究(C)
本研究では認知症やてんかんなど記憶力の低下した患者群において、言語を考えている間の脳活動を脳波計よりも高精度な脳磁図を用いて詳細に計測し、脳活動の強さと言語に関する記憶力テストの点数との関係性を明らかにする。さらに、患者群と健常成人群での結果を比較することで脳活動から言語性記憶力を推定するための新たな臨床検査法の確立を目指す。この検査法が確立できれば、従来の記憶力検査よりも検査課題が非常に容易でかつ短時間で検査が可能となり、患者にとって心身ともに負担の少ない言語記憶力検査法として非常に有益である。
従来、脳磁図を用いた言語機能研究により、特定の周波数帯域の脳活動が言語機能と関連していることが報告されているが、それらの脳活動と実際の言語能力の関係性は不明であった。近年、大脳左中心溝領域のα帯域における脳活動の強度が、言語性記憶力と有意に相関することを見出し、脳磁図により計測される脳活動が言語記憶力の指標となることを示した。しかしながら、それら先行研究では疾患のない健常人のみの結果であり、認知症やてんかんなどの疾患により言語記憶力が低下した患者においても健常人同様の相関があるかは明らかではなく、臨床検査として発展させるためには、それらの患者群にも適用できなければならない。そこで本研究では、言語記憶力の低下した認知症やてんかん患者を対象として、脳磁図により得られる言語課題時の脳活動と言語記憶力との相関を健常人と比較し、言語記憶力の高低を反映する脳活動を明らかにすることで、言語記憶力を推定する脳磁図検査法の確立を目指した。本年度は3名のてんかん患者の脳磁図計測を追加実施し、脳磁図により得られた言語課題時の脳活動の大きさと各患者のウエクスラー記憶検査(WMS-R)から抽出した言語性記憶力スコアとの相関関係を各大脳皮質領域で算出した。結果、てんかん患者のα帯域の脳活動において、大脳左中心部の領域において脳活動と言語性記憶力スコアとの間には統計学的に有意ではないものの、比較的高い負の相関を示す傾向があり、その脳領域は先行研究における健常人での脳領域と非常に近い領域であった。今後、さらに症例数を重ねることで患者群においても有意な相関を明らかにし、脳磁図を用いた新たな言語記憶力検査法となることが期待される。
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