研究課題
基盤研究(C)
神経変性疾患とRNAノンコーディング領域の関連性はこれまで数多く報告されてきた。ALSにおいてもC9ORF72のGC-rich配列のリピートやパラスペックル(NEAT1長鎖ノンコーティングRNAを芯とする)の発現が発見されたが, 治療法の実現には至っていない。本研究では、1)ALSゲノム編集モデルマウスにおけるALSに関連するRNA代謝異常の病態再現2) ALSに関連するとりわけ核内の各種RNA代謝変化の人為的調節がモデルマウスの生存にどのような影響を及ぼすか, の2点を解明する。本研究の創造性は独自の視点をもってRNA代謝異常に対する新規治療開発までを到達目標としている点にあるといえる。
3年次の研究実績をここに報告する。1-2年次に計画されていた計画1「ゲノム編集技術によるFUS変異ノックインマウスの作成と評価」については、表現型解析、組織内分子変化の解析を完了した。表現型に関しては、ヘテロ変異体の前肢および後肢の運動機能に14月齢時点で有意な低下を認め、その統計学的有意差も確定したデータを得た。脊髄組織の表現型解析としても、ヘテロ変異体の前角内の運動神経細胞数の減少、核膜の形態変化も定量的測定と解析評価を完了した。さらにモデルマウスでの核膜変性の分子生物学変化を明確に同定するため、ALS患者由来のヘテロFUS変異体を有するiPS細胞、健常者ドナー由来iPS細胞から人為的に作成したホモFUS変異体を有するiPS細胞をもとに運動神経細胞(MNs)を誘導し、RNA-seqの発現解析を実施した。その結果、核膜構造タンパク質および核膜内機能性タンパク質のRNA発現異常を同定した。3-4年次に実施計画していたALS特異的なRNA代謝異常の阻害による生体内効果の検討へ向けては、各種生体試料のサンプリングのため、臨床研究「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態に関連する分子メカニズムの解明と効果的薬剤標的を同定するための臨床研究」として慶應義塾大学医学部 倫理委員会で承認を得て(承認番号20221155)、ALS専門外来の拡張によって、その試料数は増加し、着実に進行中である。現在、3年次までの研究成果をすでに論文にまとめ、神経科学系の雑誌の査読過程の最終段階にある。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム編集技術によるモデルマウスの作成、表現型解析、そしてiPS細胞由来の運動ニューロン(MNs)を用いて核膜機能異常に関連するALS病態の再現性の検証という点で順調に本プロジェクトは進行している。DigiGait解析システムを用いた定量的な歩容半自動解析法によって、運動機能の差異を明確に示すデータを得た。標的となるFUS遺伝子のヘテロ変異体を有する本モデルマウスでは、核膜、核膜孔の形態変化が示され、この所見はALS患者由来iPS細胞から分化したMNs、ヒトALS剖検脊髄組織においても再現される表現型であることが確認された。またこの核膜形態変化と合わせてそのRNA発現変化の検証については、iPS細胞由来MNsを用いた系を用いたRNAシークエンスをあわせて実施した。これらの結果からFUS変異タンパクの新たな病態機序解明への切り口として、核膜における機能異常を示す分子変化に関連した知見についてまずは論文執筆まで実現した。3-4年次に計画されていた計画4でのRNA代謝異常検索と効果的薬物の開発を遂行していく上で、順調な進捗状況にあると考えている。
前述のとおり、ゲノム編集モデルマウスの生存および表現型解析において、思いがけず核膜機能異常を示す形態変化、分子変化をとらえ、その病態機序の一端を証明することができた。ここまでの結果について、モデルマウス作成の成果とあわせてまずは論文発表を行う見通しである。さらに本研究の従来の目的であるノンコーディングRNAのALS特異的な代謝異常の探索と実用的な薬剤開発に向けた研究を継続中である。共同研究施設の拡大にも助けられて新たな手法を用いた解析技術の応用性も広がり、本年度計画の特異的ノンコーディングRNA阻害薬の開発につなげていくことを目標として、当初の研究計画を軸として引き続き本プロジェクトを推進していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 7件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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