研究課題/領域番号 |
21K07294
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
平山 晃斉 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 准教授 (40437398)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 遺伝子発現制御 / 神経機能 / 神経疾患 / 染色体高次構造形成 |
研究開始時の研究の概要 |
染色体の高次構造形成が遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことが明らかとなってきたが、脳神経系での機能や疾患との関係は不明な点が多い。申請者は、高次染色体構造形成の中心となる分子CCCTC結合因子(CTCF)に着目し、脳神経系での機能や疾患との関係を明らかにするための新たな遺伝子欠損マウスの作製を進めてきた。本研究ではこれらの遺伝子改変マウスを用いて、染色体レベルでの遺伝子発現制御機構がどのような神経機能と関連し、その破綻がどのような神経疾患の原因となり得るのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
DNA結合タンパク質であるCCCTC結合因子(CTCF)は、クロマチンループを形成して遺伝子の発現制御に働く。CTCF遺伝子領域に変異をもつヒトでは知能の発達や行動に異常をともなうことが報告されていることから、神経系での重要な働きが想定されるがその機序は不明な点が多い。運動制御の中枢である小脳では、プルキンエ細胞(PC)でCTCFの発現が特に強いことから、PCでCTCFを欠損したマウス(CTCF-cKO)を作製して解析を進めてきた。CTCF-cKOマウスは、生後3週間頃から発育不全が認められ、フットプリントによる歩行解析やロータロッドテストによる協調運動・運動学習解析などからCTCF-cKOマウスは進行性の運動障害を呈することがわかった。免疫組織科学的解析から、PCの樹状突起に自己回避の異常が見られること、樹状突起上の登上線維からの神経支配領域が細胞体側にシフトすることを見出した。また、PCの樹状突起の分岐部位に膨らんだ形状が認められ、電子顕微鏡による観察から樹状突起中にGiant Lamellar Body(GLB)が形成されることを見出した。GLBは、ウェルドニッヒ・ホフマン病、13q欠失症候群、クラッベ病で報告例があり、神経変性疾患との関連が示唆されてきた。CTCF-cKOマウスの詳細な解析の結果、GLBは小胞体(ER)が層状に集積することで徐々に形成され、時間とともに巨大化していくことが明らかとなった。一方、細胞核周辺のERは著しく減少し、最終的にPCが小脳から消失することがわかった。また、これに伴いCTCF欠損マウスの運動機能が著しく低下することがわかった。層状のER が形成されるのにIP3受容体が関連しているという先行研究があるがIP3受容体に対する免疫染色でGLBが強く染まることから、GLB形成過程にIP3受容体が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CTCF遺伝子領域に変異をもつヒトでは知能の発達や行動に異常をともなうことが報告されている。免疫組織科学的解析から運動制御の中枢である小脳のプルキンエ細胞(PC)で強い発現を示すことがわかった。PC で発現するGrid2-Cre依存的にCTCFを欠損したマウス(CTCF-cKO)を作製し、小脳の機能やPCの形態に与える影響を解析した。フットプリントによる歩行解析やロータロッドテストによる協調運動・運動学習解析などからCTCF-cKOマウスは運動障害を示すことがわかった。PCの樹状突起の形状を詳細に調べた結果、同じPCから伸びた樹状突起同士が交差する自己回避の異常が見られることがわかった。同様の異常はクラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)の欠損マウスでも報告されており、CTCF-cKOのPCでcPcdhの発現を解析した結果、顕著に低下していることがわかった。また、PC樹状突起上の登上線維終末の分布を調べた結果、control群に比較してPCの細胞体側にシフトしていることがわかった。生後3週間と比較して、生後60日目にはPC樹状突起の分岐部位が著しく膨らんだ形状が認められた。電子顕微鏡による観察から、PC樹状突起の膨張部位には扁平な小胞体が層状に集積したGLBが形成されていることがわかった。GLBの経時変化を観察した結果、徐々に巨大化していくことが明らかとなった。一方、細胞核周辺の小胞体は減少していき、最終的にPCが小脳から消失することがわかった。現在、GLBの形成メカニズムおよび細胞死のメカニズムの解明に取り組んでいる。これらの進捗状況より、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って研究を進めることでPC樹状突起にGLBが形成される遺伝子改変マウスを作製することができた。GLBが形成される場所や時期はモデルマウスを確立したことで詳細に解析することができたが、GLBの形成メカニズムは未だ不明である。先行研究では層状のER が形成されるのにIP3受容体が関連しているとの報告があり、IP3受容体に対する免疫染色をおこなったところGLBが強く染色されることが分かった。IP3受容体を一つの手がかりとしてGLB形成メカニズムの解明に取り組む。また、GLBが形成されたPCは細胞死に陥るがアポトーシスのマーカーでは染まらず、そのメカニズムは不明である。電子顕微鏡による観察から、変性した神経細胞でも細胞核の構造は保たれていることが分かった。細胞死のメカニズムとしてネクロプトーシス等、他の細胞死メカニズムの可能性を検証する。GLB形成マウスの解析を進めるなかでヒトの疾患との関連が見えてきた。ヒトで報告されている遺伝子の変異を参考に新たに遺伝子改変マウスを作製して、CTCF遺伝子のどの領域が疾患と強く関連しているかの解析を進めていく。
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