研究課題/領域番号 |
21K07299
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
田口 勝敏 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60462701)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | Parkinson's disease / Lewy body / α-Synuclein / Seed / Cell-to-cell propagation / Prion-like propagation / Cell-cell transmission / α-シヌクレイン / シード / 細胞間伝播 / レビー小体 / パーキンソン病 |
研究開始時の研究の概要 |
パーキンソン病に特徴的なレビー小体の形成領域は病期の進行に伴って脳幹から大脳皮質へと拡大する。この分子的背景にはプリオン様細胞間伝播の存在が指摘されている。α-Synuclein(αSyn)を主要構成成分とする種“Seed”が細胞内へ取り込まれることから始まるが、このプロセスには未だ不明な点が数多く残されている。本研究では、レビー小体様凝集体を有する病態神経が分泌した細胞間伝播性Seedを生化学的に分離し、その構成分子を同定、詳細に解析することによってSeed産生メカニズムを明らかにすると共に、Seedを標的とした伝播阻害ストラテジーの確立を目指す。
|
研究実績の概要 |
α-Synuclein(αSyn)はパーキンソン病に特徴的な病理所見である細胞内凝集体「レビー小体」の主要構成分子であり、遺伝子のミスセンス変異や重複が家族性パーキンソン病を引き起こすことから、その発症メカニズムにおいて非常に重要な分子であると位置づけられている。細胞内におけるαSynの高発現は神経変性の危険因子であり、凝集形成を促進する。レビー小体の形成領域は、病期の進行に伴って脳幹から大脳皮質へと上行性に拡大する。現在、この分子的背景には「プリオン様細胞間伝播」の存在が指摘されている。様々な要因で高分子化したαSynを主要構成成分とする「種 “Seed”」が細胞内へ取り込まれることから始まり、内在性のαSynがSeedに重合することで最終的にはレビー小体の形成につながると考えられているが、そのプロセスには未だ不明な点が数多く残されている。 本研究では、細胞種によって異なるαSynの内在性発現レベルに着目すると共に、レビー小体様凝集体を有する病態神経が分泌したSeed を生化学的に分離し、その構成分子を同定、詳細に解析することにより、 Seed産生メカニズムを明らかにすることを目的とする。更に、Seed形成過程を標的とした伝播阻害ストラテジーの確立を目指している。具体的には Seed 産生プロセスの阻害、及び Seed 構造特異抗体による細胞間伝播の阻害によって、効率的な神経保護を図る。 当該年度では、αSyn-Seedの生化学解析を通じて見出した、Seedを構成するαSynに特徴的な分子修飾に着目し、これに関わる分子群の検索と同定作業、更にその阻害が凝集形成に及ぼす影響について検討を行った。また、αSynの内在性発現レベルに関する研究では、ヒト大脳皮質及びマーモセット脳におけるαSynの発現解析を実施し、霊長類脳に特徴的なαSynの発現プロファイルに関する学会発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ流路を用いてSeedを回収し、この生化学画分を出発材料として、質量分析法や免疫電顕法によるSeedの性状解析を実施した。その結果、Seedを構成するαSynに特徴的な分子修飾パターンを複数見出すことができた。得られた情報を基に、αSynに対するこれら様々な分子修飾が初代培養神経細胞におけるレビー小体様凝集体形成にどのような影響を与えるか検討したところ、凝集形成にとって重要な意味を持つ分子修飾の存在を見出した。現在、この修飾に関与するシグナル分子の特定作業を継続している。同時に、分子修飾に関わるシグナル伝達系と分子間相互作用に着目し、効率的に分子修飾を阻害するための方法についても検討している途上にある。以上の研究を通じて、Seedの形成と細胞間伝播メカニズムを明らかにすることを目指している。 一方、過去の多くの報告により、αSynの内在性発現レベルがレビー小体様凝集体の形成に影響する重要な因子であることが明らかになっている。我々はこれまでに、マウス脳を用いた組織学的解析により、αSynの内在性発現レベルが神経細胞の種類により大きく異なることを報告してきた。現在、ヒト及びマーモセット脳内におけるαSynの発現プロファイル解析を進めており、当該年度の研究によって、霊長類脳に特徴的な発現パターンを見出した。本結果を基に、第128回日本解剖学会総会・全国学術集会において一般演題発表を行った。今後は、この霊長類脳特異的な発現パターンに着目することにより、αSynが有する生理機能にアプローチすると共に、その疾患への関与についても検討する計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はSeedに特徴的なαSynの分子修飾に関する情報を基に、Seed形成及び細胞間伝播に必須となるシグナル分子(キー分子)を特定する。更に、これらの分子修飾を標的として、細胞間伝播を効率的に阻害するための方法について、詳細に検討する。分子修飾に関わるキー分子の同定を通じて、細胞間伝播の根底にある分子メカニズムを明らかにし、効果的な神経保護への重要な足掛かりとすることを目指す。 1. 薬理学的解析:分子修飾に関わるキー分子の発現抑制がSeed産生と細胞間伝播を阻害することができるか、検討する。同時に、分子修飾を阻害する薬剤を検索し、神経保護に有効な阻害剤を特定する。阻害効果の評価には、in vivo 凝集伝播モデル(マウス)を用いる。 2. Seed産生機構の解析:異常な神経興奮(神経活動亢進下)において、Seed産生が亢進するとの仮説を立て、これを検証する。神経活動の亢進が、本年度に見出した分子修飾に与える影響について検討する。具体的には、一過性脳虚血モデルを用いた神経細胞の異常興奮が、Seedに特徴的な分子修飾を亢進させるか、検討すると共に、修飾に関わる分子にどのような影響を与えるかについても併せて検討する。 3. Seed特異抗体の作製と伝播抑制効果の検証:Seed画分を用いてマウス脾臓細胞を免疫する。その後、脾臓細胞はミエローマと細胞融合させ、ハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中から、dot blot assay とELISA により Seed構造にのみ反応する「構造特異抗体」を産生する細胞を選別する。抑制効果の検証については、in vivo 凝集伝播モデルマウスを用いて行い、大脳皮質内への構造特異抗体の投与に関してはOsmotic pumpを用いた持続投与を行う。大脳皮質における凝集体形成効率を抗リン酸化αSyn抗体による免疫染色によって評価する。
|