研究課題/領域番号 |
21K07368
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
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研究分担者 |
由利 和也 高知大学, 医学部, 名誉教授 (10220534)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 社会性 / 慢性痛 |
研究開始時の研究の概要 |
慢性痛は傷が治癒した後も長期間続く病的な痛みである。これまで慢性痛患者の治療として痛みという感覚障害のみに目が向けられてきたが、痛みによる認知機能の低下が慢性痛患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を著しく低下させることが問題視され始めている。しかし慢性痛による認知機能低下のメカニズムは未だに不明である。そこで、本研究ではヒトと類似した社会性を持つ一夫一婦制げっ歯類に慢性痛を発症させ、発症後の社会認知力、空間認知力、社会性不安などの行動学的変化を解析すると同時に、認知力低下に関与する脳内神経回路について、脳内ドーパミン回路を中心に形態学的・機能的変化を明らかにしていく。
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研究実績の概要 |
本研究では、社会行動の発現に対する慢性痛の影響を明らかにする目的で、社会的一夫一婦制を営むげっ歯類であるプレーリーハタネズを用いて解析している。前年度の解析により、ホルマリン足底炎症痛モデルにおいて機械的アロディニアが遷延化すること(遷延性炎症痛モデル)、無処置の雌が6時間の同居でパートナー雄に嗜好性を示すことを明らかにした。今年度は、雌雄の同居時間を種々に振って、雌の雄に対する嗜好性が形成されるのに必要な同居時間の臨界期を求めた。その結果、3時間の同居でも有意に嗜好性を示したが、1時間の同居で嗜好性を示さなかった。さらに、2時間の同居でも示さなかったことから、嗜好性の臨界期は3時間であることが明らかになった。そこで、ホルマリン足底炎症痛モデルにおいて嗜好性の臨界期に変化がないか調べてみた。同居開始時に雌の足底にホルマリンを注射し、同居3時間後にパートナープリファレンステストを実施すると、パートナー雄に対する嗜好性が有意に認められた。さらに、坐骨神経結紮による神経障害性疼痛モデルにおいて、結紮1週間後に同様に評価すると、パートナー雄に対する嗜好性が維持された。ただし、無処置群やホルマリン足底炎症痛モデルに比べて親和行動時間のばらつきが大きかった。坐骨神経結紮モデルの慢性痛の発症にばらつきがあることと、今回は痛みの評価を行なっていないことを考え合わせると、評価した被験動物のなかに慢性痛を発症していない個体が含まれており、そのことが親和行動時間のばらつきにつながった可能性が考えられる。さらに、坐骨神経結紮時に加速度・温度センサーを体内に埋め込み、結紮後1週間におけるホームケージ内での運動量と深部体温の変化を記録・解析した。その結果、被検体の一部において、結紮直後から運動量と深部体温の低下がみられ、それらの低下が結紮後1週間持続した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主な研究成果は、プレーリーハタネズミの雌雄間に形成される絆の臨界期を明らかにし、坐骨神経結紮による神経障害性疼痛の慢性期では、臨界期におけるパートナーに対する嗜好性が形成されにくい傾向を検出したことである。加えて、この現象がホルマリン足底炎症痛モデルの急性期ではみられなかったことを確認できたことは、絆形成に関与する脳内神経回路が慢性痛により変調していることを示唆しており、絆形成と疼痛関連分子の相互作用という観点において、慢性痛関連分子にターゲットを絞って次年度の解析をおこなうことができる。さらに、神経障害性疼痛の慢性期に運動活性の低下と深部体温の低下を検出できたことで、従来の刺激を加えての誘発痛ではなく、自発痛による痛みの評価を行うことができると考える。間接的ではあるが、刺激装置に対する被験動物の馴れや実験者の手技に依存することなく、より客観的に慢性痛の発症を評価できることを意味し、次年度における解析の有効な手段となりうる。また、坐骨神経結紮モデルのボトルネックのひとつに、被験体のすべてが慢性痛を発症するわけではないことがあげられる。運動活性と深部体温をモニターすることで慢性痛の発症の有無を検出できることで、より効率的に解析を進めることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から今年度にかけて、プレーリーハタネズミの雌雄間に形成される絆の臨界期を明らかにし、その臨界期におけるパートナーに対する嗜好性が、坐骨神経結紮モデルにおける慢性期で形成されにくい傾向を見出したものの、データのばらつきが大きく、統計学的有意差を検出するに至らなかった。しかし、無処置群と比較して、パートナーに嗜好性を示す個体と示さない個体が明らかに二極化しており、マウス・ラットで報告されている坐骨神経結紮モデルの慢性痛の発症率(50-60%)も考慮すると、慢性痛の発症の有無を確認する必要がある。しかし、マウス・ラットで実施されるような機械刺激や熱刺激を加えての誘発痛による評価法は、運動活性の高いプレーリーハタズミで安定して記録するには時間を要し効率が悪い。この打開策として、今年度の解析で、体内埋込みセンサーによるホームケージ内での自由行動下での測定により、坐骨神経結紮モデルの運動活性と深部体温が結紮1週間後まで低下し続ける現象をとらえたので、この現象を痛みの評価として用いる。また、坐骨神経結紮モデルのパートナーへの嗜好性二極化の原因として、慢性痛の発達における個体差も考えられるので、結紮後1週間だけでなく2週間でも嗜好性の評価を行う。ホルマリン足底炎症痛モデルにおいては嗜好性の変化が検出されていないが、ホルマリン痛の急性期における評価であった。このモデルにおいても痛みが遷延化することを確認できたので、ホルマリン投与1週間後を目処に坐骨神経結紮モデルと同様の方法で運動活性と深部体温のモニターおよび嗜好性の評価を行う。このことにより、絆形成に対する慢性痛の影響を一般化できると考える。次年度はさらに、行動学的データを踏まえて、cFosタンパクやdeltaFosBの発現を指標として、慢性痛発症時における絆形成脳内回路の変調を検出していく。
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