研究課題/領域番号 |
21K07443
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52020:神経内科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊澤 良兼 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90468471)
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研究分担者 |
畝川 美悠紀 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (10548481)
滝沢 翼 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (30778874)
塚田 直己 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (80868563)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 虚血性神経障害 / 血管内皮障害 / 血液脳関門 / Neurovascular unit / 遺伝性脳小血管病 / 脳小血管病 / 脳虚血 / トロンビン / 凝固因子 / 血管内皮 / 血管透過性 / 脳血管障害 / 血管内皮細胞 / タイトジャンクション / β1インテグリン / 二光子顕微鏡 / 脳出血 / 脳卒中 / neurovascular unit |
研究開始時の研究の概要 |
脳血管障害、血管性認知症の発症には、血液脳関門透過性の亢進が関与することが知られている。当研究は過去に報告した脳血管内皮透過性亢進メカニズムに基づき脳血管障害モデルマウス等を用いてRhoK阻害薬、MLCK阻害薬等によるin vivoでの血管透過性亢進抑制効果、脳浮腫・間質液動態・梗塞体積への影響、神経機能保護効果などを評価する。最終的に、同時進行中であるニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトをターゲットとした臨床・基礎研究成果とあわせ、血管透過性制御による脳血管障害、脳血管性認知症の新規治療法の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
2022年の厚生労働省人口動態統計によれば脳卒中(脳血管疾患)は日本人の死因の第4位で、寝たきりや後遺障害の主たる原因になるなど、脳血管障害の予防と適切な治療は極めて重要な社会的・医学的課題である。血栓回収術や血栓溶解療法の進展など、超急性期脳梗塞治療の進歩は目覚ましいが、脳梗塞の発症予防は抗血栓療法と血圧管理などに依存しており、新たな脳保護薬の報告はあるものの、まだ臨床での使用は出来ず、新規治療法は久しく開発されていない。また、抗血栓療法は出血リスクと表裏一体であり、遺伝性・非遺伝性脳血管障害の根本的な予防と治療には「なぜ脳梗塞・脳出血は生じるのか」という根本的理由を解明しなくてはならない。すなわち、内皮に血栓が生じる機序、血管が破綻する機序、神経組織が機能低下する機序を解明する必要がある。 脳血管障害や血管性認知症の高リスク患者では、病理学的に脳血管透過性亢進の関与が示唆されている。申請者は低酸素、低血糖、活性化された凝固因子などがβ1インテグリンout-in signal、ミオシン軽鎖リン酸化、細胞内アクチン骨格の変化などを介して、血管内皮細胞間のタイトジャンクション発現を減少させ、血管内皮透過性が亢進する機序を明らかにしてきた。本研究は、これまでに確立した脳血管障害・脳血管透過性評価モデルを用いて、血管透過性制御機構のさらなる解明、透過性調節による脳血管障害・血管性認知症の新たな治療法確立を目標とする。 2023年度までに、大脳皮質における血管透過性亢進状態の経時変化観察のほか、中大脳動脈閉塞による脳虚血モデルマウスを用いた梗塞形成、運動障害、および血管透過性の関連性に関するデータを報告してきた。今後は、これまでの知見に基づき、通常の脳血管障害のほか、いまだ治療法が確立されていない遺伝性脳小血管病について、発病メカニズムの解明、治療法開発への展開を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度前半までは、当初の研究計画の申請内容と比較し、多少の遅れを認めた。その主な理由として、2022年度から運動障害と血管透過性亢進の関連性を評価する目的で、マウス中大脳動脈一過性・永久閉塞による脳虚血モデルを新たに導入したことが挙げられる。元の研究計画では、in vitroで血管内皮細胞への作用を評価済みであったトロンビンなどの血管内皮作動性物質を、stereotaxic injectionによって脳表(大脳皮質)に投与するin vivoでの血管内皮透過性変動モデルを用いていたが、注射による直接的な組織障害のほか、脳出血の発症や、痙攣誘発作用が認められるなど、in vitroの結果から予測したようなデータを安定して得ることが困難であった。そのため、二光子顕微鏡を用いたマウス大脳皮質における血管透過性評価、および血管作動性物質による血管透過性への影響、ならびに神経機能改善効果の評価は断念せざるを得なかった。このため、当初予定よりも計画の遅延が続いた。そこで、大脳皮質での透過性評価モデルから変更し、中大脳動脈の一過性・永久閉塞による基底核を含む大脳半球の虚血、およびそれに伴う血管透過性亢進・梗塞巣を用いた評価モデルに変更した。この中大脳動脈脳虚血モデルでの安定した手技、虚血時間を含む梗塞形成条件の最適化など、モデル確立には2023年前半までの長時間を要した。しかし、2023年後半には、この新たな脳虚血モデルによる梗塞やペナンブラ形成、運動機能評価を主とする神経障害についてデータ収集が進み、論文(査読あり)にアクセプトされるなど、当初の計画程度まで進展が認められた。このように新たな脳虚血モデルを用い、我々が提唱している血管透過性変動メカニズムに基づき、血管内皮作動性物質の脳機能に与える影響評価が可能となった。このように当初計画から変更はあるが、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
新たな中大脳動脈一過性・永久閉塞モデルの確立、および梗塞・ペナンブラ形成、運動機能評価が可能となったことから、今後は我々が提唱する血管透過性調整メカニズムに基づき、血管内皮作動性物質による脳血管障害への影響について評価する予定である。具体的には、虚血誘導後の血管透過性亢進部位と梗塞部位との解剖学的関係性、大脳皮質および基底核の障害と運動機能障害の関連性の評価、実臨床で用いられている薬剤など血管作動性物質が血管透過性・出血性変化、ペナンブラ領域、運動障害に与える影響などについて評価を検討する。 当研究の目的である「なぜ脳梗塞・脳出血は生じるのか」「脳血管障害および脳血管性認知症の高リスク患者で観察される、血管内皮細胞間の間隙拡大、脳血管透過性亢進の機序はなにか」という課題の解明には、脳微小循環、Neurovascular unitにおいて相互作用する多因子に着目した評価が必要である。これまでに、β1インテグリン介在性細胞内シグナルの変動による血管透過性変化メカニズムについて、一定の再現性、妥当性が確認されていることから、今後はこれまでの知見を応用し、治療法が確立されていない遺伝性脳小血管病による脳血管障害進展メカニズムの解明、治療法確立に向けた研究への展開を検討する。具体的には、脳小血管病で観察されるラクナ梗塞、微小出血、多発性白質病変の形成機序について、血管透過性調節機構の破綻と細小血管の破綻という観点から解明を試みる。そのためには、遺伝性脳小血管病患者由来の血管内皮細胞を用いて、細胞内シグナリングの解明が必要であり、in vitroでの評価が欠かせないことから、今後同疾患の患者由来iPS細胞確立を検討する。最終的に、実臨床ですでに使用されている薬剤の血管透過性低下作用に基づいた、遺伝性脳小血管病の血管内皮細胞機能維持による新たな脳血管障害予防法の確立を目指す。
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