研究課題/領域番号 |
21K07444
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52020:神経内科学関連
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
常深 泰司 順天堂大学, 大学院医学研究科, 准教授 (50401344)
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研究分担者 |
赤松 和土 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (60338184)
竹下 幸男 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70749829)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | パーキンソン病 / アルファシヌクレイン / 血管脳関門 / iPS細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
パーキンソン病の病理学的特徴の一つはレヴィ小体形成であるが、その主要構成成分であるアルファシヌクレイン(a-syn)が細胞内蓄積し、末梢組織から中枢神経へ、そして神経細胞間を伝播する機序は未解決である。本研究は、エキソソームがa-synの蓄積、神経細胞間、末梢組織から中枢神経間の伝播に与える影響を検討し、この経路をターゲットとした新規治療法を開発する。そのため患者iPS細胞から作成したドパミン細胞、星状細胞とin vitro BBBモデル、マウスモデルを駆使しエキソソームによる中枢神経侵入とa-synの脳内拡散機序を解明し、ここをターゲットとする新規治療法を開発する。
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研究実績の概要 |
シヌクレイノパチーはシナプス前タンパク質であるα-シヌクレイン(a-syn)の異常凝集を特徴とする疾患群である。パーキンソン病(PD)やレヴィ小体型認知症は末梢組織に蓄積したα-シヌクレイン(a-syn)の異常構造体がシードとなりが脳内に移行し伝播することが有力視されている。その経路として当初は自律神経の軸索を経た輸送経路が考えられたが、マウスを用いた動物実験では脳幹までしか広がらなかった。一方、PD患者の剖検脳や動物実験から、PDにおいて血液脳関門(BBB)の破綻が報告されており、ここを介して液性因子による伝播の可能性も考えられる。これから、申請者らは末梢組織に蓄積したシードがBBBを通過して脳内に侵入すると仮説した。この仮説の実証とPDの重要な背景因子である遺伝子の影響を解明するためにはヒトiPS細胞を用いたBBBモデル(iPSC-derived BBB; iBBB)の構築が必須と考えた。健常人とSNCA A53T変異を有するPD患者のiPS細胞からプロトコールに則りBBB構成細胞である血管内皮細胞、壁細胞、星状細胞への分化を行なった。各々の細胞への分化は免疫染色にて確認した。さらに機能解析にて血管内皮細胞は、サイズ依存性の透過性、選択的透過性及びエンドサイトーシス機能を有していた。これらの3種類の細胞を共培養して作成したiBBBはバリア機能が増加し、これまでの不死化細胞を用いたBBBの細胞モデルと同等のモデルをヒトiPS細胞を用いて作成することに成功した。さらにSNCA A53T変異を有するiBBBは健常人と比べて透過性が変化していることを見出した。またエキソソームはBBBをより通過しやすいことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常人とSNCA A53T変異を有するPD患者のiPS細胞からBBB構成細胞である血管内皮細胞、壁細胞、星状細胞への分化を行った。血管内皮細胞への分化はCD31、Claudin5の、壁細胞はPDGFRBの、星状細胞はGFAPの発現を免疫染色にて確認した。さらに内皮細胞の機能実験を行なった。具体的には、蛍光標識した10 kDaと400 Daのデキストランの透過を培養液の蛍光強度を測定した。その結果サイズ依存性の透過性(p < 1X10-7)を確認した。さらにデキストランとトランスフェリンの依存性の比較からレセプター依存性の選択的透過性(p < 1X10-6)を確認した。さらにエンドサイトーシス阻害剤であるDynasoreを用いてエンドサイトーシス機能を有していること(p < 1X10-5)も観察した。以上から機能的に内皮細胞機能を有していることを示した。そして壁細胞をインサート膜内へ培養し、その上部に内皮細胞を培養、さらにインサート膜裏に星状細胞を播種することで、本来のBBB構造により近い三重培養に成功した。さらにこれらの細胞を用いて、血管内皮細胞をインサート膜内へ、壁細胞と星状細胞をプレート底に培養して作成したiBBBも10 kDaと400 Daのデキストランの透過性からサイズ依存性の透過性を有しており、抗Claudin5抗体による透過性の上昇からタイトジャンクション機能を保持していることを確認した。さらに健常人とSNCA A53T変異を有するiBBBの透過実験を行い、SNCA A53T変異を有するiBBBでは変化していることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においてiPS細胞から各々の細胞に分化しiBBBを構築してたことが最大の成果である。特に血管内皮細胞をインサート膜内へ、壁細胞と星状細胞をプレート底に培養することで、血管内皮細胞の一層構造を維持したiBBBモデルを確立した。本来のBBB構造により近い三重培養モデルを用いて生理学的機能評価を行うとともに、エキソソームに含有されることによるa-syn透過性の変化を検討しえた。今後は、SNCA A53T変異以外のPD変異(SNCA triplication、ATP13A2変異)とともにPDリスク因子を有する孤発性PD患者のiPS細胞からiBBBを作成し、BBB構成因子の発現蛋白の変化やエキソソーム含有の有無によるa-syn透過性の差を検討する。また、a-syn毒性によるBBB透過性の変化を解明するために、iBBBに繊維化a-synを投与して透過性の変化を検討する。これには経上皮電気抵抗(TEER)測定器を用いてBBBモデルの経時的機能評価を行う。さらに、認知症のリスク因子であるAPOE遺伝子ε4アレルの有無を検討するため、APOE遺伝子ε4アレルを有するPD患者からiPS細胞を樹立し、これからiBBBを作成しa-synBBB構成蛋白や機能の比較を行う。SNCA A53T変異による透過性の変化の分子学的基盤を定量的プロテオミクスを用いて、発現タンパク質の差から解明することも計画している。
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