研究課題/領域番号 |
21K07450
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52020:神経内科学関連
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中道 一生 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (50348190)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 神経感染症 / 脳 / ウイルス / 脱髄疾患 / 検査技術 / 脳神経疾患 / 医療・福祉 / 感染症 |
研究開始時の研究の概要 |
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)はJCウイルス(JCV)に起因する重篤な脱髄疾患である。JCVは多くの成人の末梢部位にて無症候性に持続感染しており、免疫能の低下に伴ってJCVが再活性化および変異し、脳内で増殖する。PMLの根本的治療法は確立されておらず、深刻な後遺症もしくは致死的転帰を伴うことが多い。本研究では、PMLの背景疾患を有する患者におけるJCVの再活性化機序を包括的に解析し、そのリスク評価に資する検査系を構築する。
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研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)は細胞性免疫の減弱等を背景として生じる重篤な脱髄疾患であり、JCウイルス(JCV)によって引き起こされる。多くの成人では、一様なウイルスゲノムの配列を有するJCV(アーキタイプ)が腎臓において持続感染、およびリンパ節や骨髄等において潜伏感染を成立させている。免疫能が低下した患者では、末梢部位のアーキタイプJCVの増殖が再活性化し、ゲノムの一部が変異したJCV(プロトタイプ)が脳内のオリゴデンドロサイトで増殖することで脱髄に至る。PMLの根本的治療法は確立されておらず、深刻な後遺症を呈することが多い。本研究は「PMLの背景疾患を有する患者の末梢検体中のJCVの出現量および変異パターンに基づいて再活性化機序を包括的に解析し、PMLのリスク評価に資する基盤的データならびにハイスループット検査系を構築する」ことを目的とする。前年度までの本研究では、PMLの素因を有しながらもPMLを生じていない患者(非PML患者)、およびPMLと診断された患者の血漿等を対象としたJCVの高感度スクリーニング技術を確立した。令和5年度における本研究では、PMLのリスク評価の対象となる具体的な背景疾患およびその治療歴等を絞り込むため、過去17年間において脳脊髄液中JCV検査が実施された患者の臨床情報のデータベースを広範囲に解析した。対象者(約2300名)のうちPMLと診断された患者は約450名であり、様々な素因を背景として同疾患が発生していた。また、直近5年間では濾胞性リンパ腫等の血液疾患を有する患者においてPMLが増加しており、新しい種類の治療がPMLの素因になっていることが推察された。加えて、その診断では本研究において確立したJCVの高感度スクリーニングが有用であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの本研究においては、PMLの素因を有する非PML患者、およびPML患者の臨床検体を対象としてJCVの出現パターンや変異の有無を解析した。また、血液から高度に濃縮および精製されたDNAを用いるJCVの高感度検出系を至適化した。本検出系は血液中に存在する極微量のJCVを補足するだけでなく、そのウイルスがPMLを生じる変異型JCV (プロトタイプ)であるか否かを識別することができる。したがって、本検出系はPMLの早期診断のためのスクリーニング、および脳脊髄液の採取が困難な状況でのJCV検査において有用である。ただし、PMLと診断された症例であっても、血液中にJCVが検出されなかった患者が認められたことから、血液を対象としたJCV検出はPMLの診断における補助データに留まることが示唆された。加えて、血漿や白血球におけるJCVの出現はウイルスの再活性化を反映しているが、その段階ではすでに早期のPMLが生じ始めていることが推察された。PMLの素因を有している患者がPMLを生じる前の段階において、実際にJCVに感染しているか否か、あるいは末梢部位においてJCVの増殖が再活性化しているかを調べるための検査技術が必要である。加えて、本研究の計画当初は背景疾患によるPMLのリスク評価の対象として多発性硬化症といった自己免疫疾患を想定していたが、研究の進捗に伴ってPMLの背景疾患の動向に変化が生じていることが分かった。そこで、令和5年度における本研究では2000名を超えるPML疑い患者の臨床情報を集積したデータベースを解析し、PMLのリスク評価の対象となる背景疾患を特定した。また、最近では基礎疾患に対して新しい種類の治療がなされた患者でのPMLの発症が増加していた。以上の結果より、自己免疫疾患だけでなく血液疾患を有する患者においてPMLのリスクを評価することの重要性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの本研究では、アーキタイプのゲノム構造を維持してヒトに持続感染し、再活性化およびプロトタイプへの変異を経てPMLを生じさせるJCVを標的として、末梢部位におけるウイルスの動態や変異を把握するための検出系を確立した。また、研究の立案当初はPMLのリスク評価の対象となる背景疾患として、多発性硬化症や全身性エリテマトーデスといった自己免疫疾患を想定していた。しかし、最近では医療の進歩に伴い濾胞性リンパ腫や多発性骨髄腫等の血液疾患において新たな治療が選択されており、これらの素因を有する患者においてもPMLのリスクを評価する必要性が高まっている。加えて、実際にPMLを発症した場合であっても血液からJCVが検出されない症例が存在するという本研究の知見に基づくと、ウイルス学的なPMLのリスク評価においては血液ではなく尿が適していることが推察された。PMLの素因となりうる背景疾患を有する患者がJCVに感染しているのか否かを超高感度で判定することができれば、そのリスクの評価において指標のひとつとなりうる。しかし、脳脊髄液や血液と比較した場合、尿におけるJCVの陽性率は非常に高いため、定量的PCR検査を目的とした核酸抽出工程における他の検体や作業環境のDNA汚染が懸念される。他方、尿にはPCR阻害物質が含まれているため、ダイレクトPCRによる核酸抽出作業の省略は困難である。そのため、令和6年度の本研究では、完全閉鎖系の限外濾過を用いたPCR阻害物質の除去によって核酸抽出をスキップし、DNA汚染のリスクを回避しながら尿中JCVを検出するためのハイスループット検出系を開発する。本検出系はPMLの素因を有する患者におけるJCVの感染の有無や再活性化を調べる上で必要不可欠であり、今後の研究の推進において重要なスクリーニング技術となる。
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