研究課題
基盤研究(C)
本課題では治療抵抗性統合失調症(TRS)患者の病態にオキシトシンやGABA系システムが関与し、これらは通常の統合失調症患者とは異なる神経基盤を有していることを検証することを目的とする。そのためにTRS患者、非TRS患者、健常者から血液試料を採取して、オキシトシンやGABAの血液中濃度測定(生化学的手法)、GABA・オキシトシンシステムの遺伝子多型検索(遺伝子学的手法)、経頭蓋磁気刺激(TMS)装置を用いた皮質静止時間(CSP:中枢GABA信号伝達の間接的指標)の測定(電気生理学的手法)を用いてデータを収集し、解析を実施する。
本課題は治療抵抗性統合失調症(treatment-resistant schizophrenia: TRS)の病態に関わる神経ネットワークとして特にGABA機能に着目した検証を目標として実施した。(1)TRS患者435名、非TRS患者539名、健常者489名を対象に、ドパミン信号を制御する遺伝子上の機能的一塩基多型の分布を検証した。dopamine transporter遺伝子SLC6A3上のrs3756450(5’UTR)と40bp-VNTR(3’UTR)はTRS-非TRS群間で有意差を認めた。さらにrs3756450のAアレルとCOMTrs4680の遺伝子型GGを保有する者(シナプス間隙の低ドパミン状態と推定)はTRS群で非TRS群より多かった。TRS-非TRS間におけるドパミン調整の違いが薬剤反応性に影響を与える可能性を示唆する結果である。 (2) 皮質抑制(cortical silent period: CSP)は経頭蓋磁気刺激装置で測定される電気生理学的指標で、中枢GABA機能を反映するとされる。統合失調症患者を対象にCSP測定した報告を系統的レビュー及びメタ解析を実施した。その結果薬剤別の検証でolanzapine/quetiapine群・その他薬群で差が無かったが、clozapine(CLZ)群では健常者に比し有意に延長していた。CLZのGABA機能強化を示唆する結果である。(3)CLZの導入時期と治療反応性を探るべくTRS患者を経過から早発型と後発型に分け、導入1年後の改善度を指標とする多施設共同後方視研究を実施した。現在まで134症例(早発型32例、後発型102例)を解析している。導入1年後のCGI-Cで早発型5.4、後発型5.8で、後発型で有意な改善を認めている。後発型ではdopamine過感受性型が多く、CLZにより良好な反応を示す可能性が示唆された。
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