研究課題/領域番号 |
21K07512
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52030:精神神経科学関連
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研究機関 | 崇城大学 (2022-2023) 国立研究開発法人理化学研究所 (2021) |
研究代表者 |
江崎 加代子 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (20744874)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 精神神経疾患 / 統合失調症 / スフィンゴ脂質 / 脂質生化学 / 精神疾患 / 死後脳 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者はこれまでの研究において、統合失調症患者死後脳の白質(脳梁)でスフィンゴ脂質の一種であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)が有意に減少していること、そしてS1P受容体の遺伝子発現が上昇していることを明らかにした。この発見に基づき、本研究では統合失調症病態、特に白質病態におけるS1Pシグナル経路の関与を明らかにし、精神疾患の治療および予防に向けた臨床応用のための革新的な基礎的知見を得ることを目的とする。
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研究実績の概要 |
これまでの研究で、統合失調症患者死後脳(白質)において、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の含量が有意に低下していることが明らかになっている。また、薬理学的精神疾患モデルマウスへのS1P受容体外因性リガンドの投与が精神疾患様行動異常を抑制したことから、S1P受容体の外因性リガンドが統合失調症の治療薬候補となる可能性が示唆された。そこで、本研究ではS1P受容体外因性リガンドの投与がどのようなメカニズムで行動異常を抑制したのか明らかにするため、外因性リガンドAを投与したマウスの脳組織(脳梁および前頭葉)を採取し、RNA-seqによる解析を行った。遺伝子発現変化解析結果についてGene Ontology解析を行ったところ、外因性リガンドAが脳梁においてドーパミン受容体やグルタミン酸受容体の発現低下や、前頭葉においてオリゴデンドロサイト前駆細胞増殖亢進遺伝子の発現増加を誘導していることが明らかとなった。 また、認知症などの精神症状の高頻度の併発が報告されている筋萎縮性側索硬化症(ALS)においてスフィンゴ脂質合成酵素の変異が同定された。そこで、家族性および孤発性ALS患者およびそのご家族の血漿サンプルについて解析を行い、精神神経疾患の病態メカニズムにおけるスフィンゴ脂質代謝異常の関与の可能性について検討した。その結果、ALS患者血中におけるセラミドやデオキシセラミドなどのスフィンゴ脂質の含量の有意な増加が観察された。患者において同定された遺伝子変異は、スフィンゴ脂質合成を負に制御するORMDL3の、スフィンゴ脂質合成酵素との相互作用を傷害している可能性が示唆されている。これらのことから、スフィンゴ脂質合成調節機構の異常によるスフィンゴ脂質産生の亢進がALSの病態メカニズムに関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第17回日本アミノ酸学会学術大会で実行委員を担っていたため、学会運営に思った以上の時間が取られて実験にやや遅れが生じた。 現在までの進捗状況は、メタンフェタミン投与、S1P受容体外因性リガンド投与、メタンフェタミン+リガンド投与およびそれらの対照群のマウスの脳組織を用いてRNA-seq解析を行った。その遺伝子発現変化のデータを用いてGene Ontology解析を行った結果、外因性リガンドAが脳梁においてドーパミン受容体やグルタミン酸受容体の発現低下や、前頭葉においてオリゴデンドロサイト前駆細胞増殖亢進遺伝子の発現増加を誘導していることが明らかとなった。ドーパミン受容体やグルタミン酸受容体の発現低下は陽性症状の抑制に関与すると考えられていることから、S1P受容体リガンドの精神疾患様行動異常の抑制にはこれらの発現低下が関与すると考えられる。 また、2種の異なるスフィンゴ脂質合成酵素遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者およびそのご家族の血漿サンプルについてスフィンゴ脂質抽出を行ったのちに質量分析装置を用いて分析を行った。その結果、患者血漿の各種スフィンゴ脂質分子種の濃度は、家系内の健常対照と比較して顕著に増加していた。特に、細胞死を誘導するセラミドや細胞毒性を有する非定型スフィンゴ脂質であるデオキシセラミドなども増加していた。これらのことから、患者におけるセラミドやデオキシスフィンゴ脂質の増加が、ALS病態形成に関与することが示唆された。これらALS患者血中脂質分析の成果をまとめた英語論文は、Ann. Clin. Transl. Neurol.でアクセプトされた。
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今後の研究の推進方策 |
神経幹細胞にリガンドを添加し、オリゴデンドロサイトへの分化にどのような影響を与えるか解析する。また、今回解析に用いたALS患者とは別の変異をもつ患者の血清についても脂質分析を進め、病態メカニズムとスフィンゴ脂質代謝の関連について検討する。さらに、スフィンゴ脂質合成の抑制遺伝子の変異を持つ線虫を用いて、スフィンゴ脂質が神経系の異常などに果たす役割を解析する。
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