研究課題/領域番号 |
21K07654
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52040:放射線科学関連
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鍵谷 豪 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30524243)
|
研究分担者 |
小川 良平 富山大学, 学術研究部医学系, 准教授 (60334736)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 細胞死 / アポトーシス / ネクローシス / 低侵襲イメージング / 放射線 / リアルタイムイメージング / 腫瘍内細胞死 / オートファジー細胞死 / リアルタイム可視化 |
研究開始時の研究の概要 |
放射線や抗がん剤により腫瘍内で誘発される細胞死を可視化するシステムは、放射線治療条件の最適化および放射線化学療法の開発等に対し有用な評価法になり得ると考える。本研究の目的は、放射線による腫瘍内細胞死(アポトーシス、ネクローシス、オートファジー細胞死)を低侵襲かつリアルタイムに可視化するシステムを構築し、放射線治療臨床研究へ還元できる生物学的エビデンスを提示することである。これら細胞死可視化システムから得られる4次元動態解析を基に、殺細胞効果の高い放射線治療の確立を目指す。
|
研究実績の概要 |
放射線照射による腫瘍細胞の細胞死誘発が放射線がん治療の基本である。しかし,腫瘍組織内での細胞死については,技術的な困難さからこれまで詳細に検討されることはなかった。我々は,インテインによるプロテインスプライシングを利用したシステムを応用することで,腫瘍内でのネクローシス(Nec)や,腫瘍内でも特に酸素濃度の低い低酸素領域でのアポトーシス(Apo)をリアルタイムにイメージングすることに成功した。また,これらを利用した解析により,放射線により腫瘍内低酸素領域で誘発するApoが酸素領域で誘発するApo頻度と比較して少ないこと,さらに放射線による腫瘍内Apoは腫瘍細胞の放射線感受性のみで決定されるものではなく,組織を構成する腫瘍血管の損傷による細胞への栄養供給の低下も大きな要因となりうることが示された。本年度は放射線照射により腫瘍血管損傷が照射した腫瘍内で実際に起きるのか,毛細血管スコープを用い腫瘍血管の形態観察と血流速測定をおこなった。その結果,照射腫瘍の腫瘍血管の損傷は激しく断片化した像も観察された。また照射腫瘍の腫瘍血管血流速度は非照射腫瘍と比較し低値を示し統計的有意差を認めた。本年度は,昨年度得られた“放射線による腫瘍血管損傷を介した細胞死”を裏付ける直接的データの取得に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は構築したApo可視化システムを用いることで,X線による腫瘍内Apoの誘発はがん細胞の持つ放射線感受性のみで決定されるものではなく,がん組織を構成する腫瘍血管の損傷もまたその誘発決定に大きく関与するという間接的なデータ取得に成功した。本年度は,高線量X線単回照射により腫瘍血管損傷が実際に照射した腫瘍内で起きるのか,またその機能破綻はおきるのか,この2点を検証することを目的に照射後の腫瘍血管の形態観察と血流速測定をおこない,腫瘍血管損傷に直接関わるデータの取得を目指した。はじめに毛細血管スコープを用い,非照射腫瘍内の毛細血管を拡大撮影し形態観察をおこなった。腫瘍血管の走行は,正常組織の毛細血管と比較し屈曲・蛇行し,その血管径も大小様々であり狭窄等があることを確認した。次に腫瘍に対し20 GyのX線単回照射をおこない,照射6時間と9時間後の腫瘍血管の形態観察をおこなった。その結果,照射腫瘍の血管は非照射腫瘍のそれと比較し血管損傷が激しく,特に照射9時間後においては毛細血管が断片化した像も確認された。また毛細血管流速測定計測ソフトを用い腫瘍血管の血流速度を解析した結果,非照射腫瘍の血流速度が約40 μm/secであるのに対し,照射腫瘍の血流速度は約20から10 μm/secと低い値を示し統計的有意差を認めた。今年度の実験結果は,前年度の実験結果を裏付けるものであり,放射線による腫瘍血管損傷を介した狭窄や閉塞等は,がん組織内の血流低下(停止)を引き起こし,栄養および酸素欠乏により腫瘍内Apoが誘発されると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究目的達成のため,以下の2つ項目を研究期間内に実施予定である。 1.放射線による腫瘍内細胞死への免疫機構関与の評価:放射線による腫瘍内Apo誘発は,①がん細胞自身の放射線感受性,②腫瘍血管損傷を介した栄養および酸素欠乏,③免疫機構の関与,これら3つにより決定されると考えられる。我々の実験系ではTリンパ球免疫不全であるヌードマウスを用いたため,腫瘍内Apoの誘発には③免疫機構の関与は少なく,その原因は腫瘍血管損傷を介した栄養および酸素欠乏だと考えている。しかし,細胞死誘発に関与するNK細胞の活性はヌードマウスにおいて残存している。このため,TおよびBリンパ球が機能不全であり,またNK細胞の活性がより低下した免疫不全マウスNOD scidマウスを用いた実験をおこない,高線量単回照射により早期に誘発される腫瘍内Apoに免疫系が関与していないことを検証する。 2.赤色に発光するホタル由来AkaLucを用いたNec可視化システムの再構築: 体内でフリマジンより安定なD-ルシフェリンを基質にもち,かつ生体深部からの発光も検出できるように長い発光波長613 nm(赤色)を有するホタル由来AkaLucを用い,Nec可視化システムの再構築をおこなった。その結果,前回構築したエビ由来Lucを基本骨格としたNec可視化システムと比較し,その発光値は大幅に低下し,生体腫瘍からその発光を検出する事は難しいと考えられた。発光低下の原因は,今回構築したAkaLuc由来2断片Luc可視化プローブの熱安定性がエビ由来可視化プローブと比較し低く,分解されやすいためだと考えた。来年度はAkaLuc由来2断片Luc可視化プローブにタンパク質安定に関与するIgG-Fc配列を付加することで,熱安定性に優れた高発光型Nec可視化システムへの改良を目指す。
|