研究課題/領域番号 |
21K07880
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
林 深 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 部長 (50596244)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ゲノム編集 / VUS / 疾患モデルマウス / 臨床遺伝学 / 発達障害 / てんかん / ゲノム医学 / 遺伝性疾患 / 病的意義の不明なゲノム変異 / i-GONAD |
研究開始時の研究の概要 |
神経発達症やてんかんなどの発達障害を呈する遺伝性疾患の多くは長らく原因が不明であったが、近年急速に発達したゲノム解析技術により、疾患の原因となるゲノム変異が検出されるようになった。しかし同時に、疾患の原因であるかどうか明らかではないゲノム変異も多数が検出されるようになり、これらを解釈する方法は確立していない。そこで本研究では、当該ゲノム変異を正確に模した遺伝子改編マウスをゲノム編集技術により迅速に作出して疾患原因か否かを直接的に判定し、遺伝性疾患を診断し、病態を明らかにすることを目的とする。これらの知見は治療法開発や遺伝カウンセリングなどに寄与することも期待できる。
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研究実績の概要 |
神経発達症やてんかんなど、主に発達障害を呈する遺伝性疾患は全人口の数%に存在する。次世代シークエンサーなどのゲノム解析技術により、疾患原因と考えられるゲノムバリアントの検出は飛躍的に容易になってきた。しかし、そのバリアントがタンパク・細胞・組織・生体レベルで引き起こす病態機序の理解は相対的に遅れており、特に病的意義の不明なゲノム変異 (VUS)の評価については、現時点では有効な方法がない。 そこで本研究では、ゲノム編集試薬を妊娠マウスの受精卵に直接導入し、遺伝子改変マウスを最短19日で作出する技法であるiGONAD法により、目的とするゲノムバリアントを正確に模したモデルマウスを迅速かつ正確に作出することによって、当該VUSが個体・組織レベルでどのように遺伝子機能を障害し、発生発達に影響するかを評価する。即ち本研究は、直接的かつ迅速にVUSがpathogenicであるかbenignであるかを判定する系を構築し、遺伝性疾患におけるゲノム解析の結果をより有効に活用して遺伝性疾患の理解を拡げるものである。 現況としては、当所計画していたVUSのほか、臨床との連携により新規に見いだされたVUSについても漸次モデルマウスの作出に成功してきた。研究2年間で、すでに10遺伝子における14系統のモデルマウス作出に成功している。特に、2遺伝子 (CTNND2, TENM4)については目的とするノックインマウスのほかノックアウトマウスも作出し、戻し交配を終えて薬剤誘発の痙攣感受性や神経病理の評価など、組織や行動レベルでの表現型評価をすでに開始している。その他、ノックアウトマウスがしばしば致死的となるZEB2遺伝子については、セルラインに直接ゲノム編集を施したノックアウト株を作製し、制御・被制御因子の探索を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね研究は順調に進展している。申請時の研究計画に沿って進捗状況を示す。 1) 発達障害を呈する遺伝性疾患におけるVUSの収集と解析:初年度に引き続き、研究協力者である臨床遺伝専門医たちとの症例検討や、IRUDにおける全エクソームシーケンスの解析データなどから、病的意義の明らかではないゲノムバリアント (VUS)の収集を継続している。今年度は、複雑な脳奇形を呈する発達遅滞の原因遺伝子候補CDON、発達遅滞の原因遺伝子候補CNOT2にそれぞれVUSを見出し、解析候補とした。 2) i-GONAD法を用いた遺伝子改変マウスの作出と評価:1)で収集されたVUSを正確に模したモデルマウス作製については、現在までに10遺伝子14系統のマウスの作出に成功した。一部マウスは戻し交配を行い、蛋白・細胞・神経病理の評価ならびに行動解析を開始している。1例として、てんかん・発達遅滞を呈する家系例に見出されたTENM4におけるスプライシング領域のVUSを挙げる。本VUSを正確に模したモデルマウスは、発端患者に見られたエクソンスキップをRNA, 蛋白レベルで正確に再現していた。また、薬剤誘発の痙攣に対する有意な感受性増加、神経軸索伸長の抑制や中枢神経系の形成不全など、発端症例の病態を説明し得る表現型の異常が、生体レベルならびに組織レベルの両方で明らかになり、現在では論文化を目指し解析を続けている。 3) CRISPR/Cas9を用いたモデル細胞作製:Mowat-Wilson症候群の原因遺伝子であるZEB2ノックアウトマウスは、従来法の作製ではしばしば致死的になることから、生体マウスによる解析が困難である。ZEB2の制御・被制御因子を探索する目的で、ゲノム編集による神経芽細胞腫セルラインのZEB2ノックアウト株を作製し、現在解析を続けている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である今年度は、先行して得られたモデルマウスの表現型評価を中心に行い、論文化を最終目標とする。以下に具体例とともに方針を示す。 てんかん・発達遅滞の原因候補であるTenm4のVUSを有するモデルマウスについてはすでに中枢神経の組織学的検討や、pentylenetetrazoleの薬剤誘発性けいれん感受性の評価を開始し、野生型マウスに比してけいれん感受性閾値の低下、神経細胞や有髄線維の低下といった、発端症例の症状を説明し得る所見を得ている。これらの解析を継続するとともに、中枢神経の組織学的検討によりけいれん誘発後に障害される細胞腫を探索し、てんかんの機序を明らかにする。なお、本論文についてはすでに作製を開始している。同様に、てんかん・発達遅滞の原因候補であるCtnnd2のVUSを有するモデルマウスについては既に戻し交配を終えているため、同種の検討を行い、当該VUSと臨床症状との連関を探索する。 すでに作出に成功したその他のマウスについては、戻し交配を行うとともに、発端症例の表現型に応じて、体長・体重や外表奇形などマクロの表現型、神経病理などの組織学的検討、けいれん誘発、行動解析などを行ってゆく。具体的には、不安様行動を示す症例に対するオープンフィールド試験、歩容異常を呈する症例に対するホイールランニング試験や神経・筋肉の組織学的検討、皮質形成異常を呈する症例に対する中枢神経の組織学的検討などである。 なお、得られたマウスは解析のリソースとしても活用する。具体的には海馬神経細胞初代培養や免疫染色などを行い、当該VUSが神経発達や中枢神経形成に及ぼす影響を評価する。また、当該遺伝子の野生型を発現させることによって細胞レベルで表現型の回復が起こるかどうかを評価することで、治療可能性のエビデンスとする。
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