研究課題/領域番号 |
21K07982
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
山本 安則 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (20649066)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | NASH / MTP / PPARα / 肝線維化 / パルミチン酸 / 非アルコール性脂肪肝炎 / CD36 / MTTP / GLP-2 |
研究開始時の研究の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis : NASH)は、肝硬変、肝癌を起こし得る慢性肝疾患である。しかし、未だ有効な治療薬がない。近年、パルミチン酸が、NASH発症、線維化進展に強く関与することが報告された。申請者らは、NASH患者において小腸粘膜でのパルミチン酸吸収能が、健常人より有意に亢進し、また、NASH小腸粘膜上皮において、脂肪酸吸収に関連する特定の蛋白の過剰発現を同定した。本研究では、NASH小腸上皮における脂肪酸輸送体(CD36,MTP)を標的としてパルミチン酸吸収を抑制する研究を行い、NASH治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)の治療法開発において、食事由来の飽和脂肪酸の小腸粘膜吸収を制御することにより、NASHの線維化進行を抑制する可能性を検証することである。小腸粘膜の脂肪酸吸収抑制に焦点を当て2つの研究を行った。 第一の研究では、小腸粘膜上皮におけるmicrosomal triglyceride transfer protein(MTP)阻害を試みた。MTPは、小腸カイロミクロン合成の律速酵素である。まず、C57BL/6マウスに高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料を与えてNASHモデルマウスを作成した。次に、NASHモデルマウスを腸管特異的MTP阻害薬(SLx-4090)投与群とプラセボ群に割り付けた。組織学的評価では、SLx-4090投与群において小腸MTPのmRNA量は低下傾向にあるものの、有意差はなかった。肝星細胞活性化因子は、SLx-4090投与群で低下がみられ、一部有意差が認められた。本研究では、腸管特異的MTP阻害薬の投与量が少なかったことがこの結果に影響を与えた可能性がある。 第二の研究では、選択的PPARαアゴニストであるPemafibrateを用いて、NASHモデルラットの腸管脂質代謝および肝線維化に対する効果を評価した。Pemafibrate投与群では、腸管絨毛組織における中性脂肪沈着が有意に減少した。また、投与群で小腸組織におけるPPARαのmRNA量が有意に増加し、MTPは有意に減少した。さらに、投与群の肝組織では、α-SMAの発現が著明に低減し、肝星細胞活性化因子も低値であった。 これらの結果から、特に、Pemafibrate投与により腸管でのMTP発現、脂肪滴合成が減少し、肝臓では肝線維化抑制効果がみられたことは、NASH治療法開発において有望な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗が遅れた理由は、主に腸管特異的MTP阻害剤(SLx-4090)投与量の見直しによる研究計画の調整が必要となったことが要因である。当初の研究計画では、他の先行研究で報告された投与量によって、SLx-4090投与群において腸管MTPのmRNA量の低下が有意差を示すことが期待されていたが、その結果は達成されなかった。申請者は、投与量が少なかったことが原因であると考え、研究計画を見直す必要があった。投与量の最適化によって、研究計画に再度取り組むこととなり、研究進捗が遅れた。 本研究の進捗の遅れに対し、以下の2つの対策を講じた。まず、SLx-4090の投与量問題に対処するため、関連文献の調査を行い適切な投与量を見直すことで、研究計画の再検討を行った。投与量の最適化を検討することで、現在遅れた研究進捗を取り戻しつつある。次に、Pemafibrate投与による腸管MTP発現抑制という別の実験系を確立した。これにより、脂肪滴合成の減少と肝臓における肝線維化抑制効果が示された。 以上の対策により、研究進捗の遅れを最小限に抑えることができ、特にPemafibrate投与による腸管でのMTP発現、脂肪滴合成の減少と肝臓における肝線維化抑制効果が示されたことから、今後のNASH治療法開発において有望な知見が得られることが期待される。これらの結果を基に、引き続き研究を進め、NASHの治療法開発に貢献できるよう努力を続けていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、腸管特異的MTP阻害薬増量実験を行う。さらに、腸管特異的MTPノックアウトマウスを作成し、NASH肝線維化抑制評価を実施する。 1) 腸管特異的MTPノックアウトマウスを作成する手順は以下の通りである。MTP floxマウス(MGI:2152202)とvillin-creERT2マウス(MGI:3053826)を購入し、自施設内でMTP flox/-マウスとC57BL/6 WTマウスを交配し、MTP flox/+マウスを作成する。次に、MTP flox/+マウス同士を交配して、MTP flox/floxマウスを作成する。さらに、MTP flox/floxマウスとVillin-creERT2マウスを交配し、Villin-creERT2 MTP flox/floxマウスを作成する。このマウスにタモキシフェンを投与し、腸管特異的なMTPノックアウトマウスを作成する。タモキシフェン投与後の肝臓と小腸のMTP発現量を調査し、腸管のみでMTPがノックアウトされていることを確認する。ノックアウト効果が長期的であることを確認するために、投与数ヶ月後にもMTP発現量を評価する。 2)ノックアウトマウスとコントロールマウスに高脂肪高コレステロール飼料を与え、腸管と肝臓を採取。摂食量、体重、糞便量および糞便中脂肪量を評価し、組織を用いて肝線維化と脂肪沈着を染色で評価する。脂質代謝関連因子のmRNA量をreal time PCRで評価する。 3)腸管特異的MTPノックアウトマウスの脂質吸収動態をオリーブオイル摂取後の血液中の中性脂肪値で評価する。強制摂取後3時間後、6時間後にも血液を採取し、中性脂肪の推移を評価する。 4)腸管特異的にMTPがノックアウトされることで、重篤な合併症が発症していないかを確認する。 この研究計画により、小腸MTP阻害による脂質吸収抑制がNASH治療に有効であるかを証明する。
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