研究課題
基盤研究(C)
がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast, CAF)は、がん微小環境の主要な構成因子であり重要な治療標的である。我々は大腸がん間質細胞のトランスクリプトーム解析から新規大腸がん間質関連遺伝子を同定した。この新規遺伝子は細胞外に分泌され腫瘍細胞の増殖・遊走・浸潤や血管新生を促進することを明らかにしつつある。本研究は新規遺伝子のがん微小環境における機能を解明し、新たな大腸がん治療法の開発につなげることを目的とする。
臨床検体におけるAEBP1発現解析とその臨床病理学的意義を検討した。AEBP1は腫瘍間質、とくにがん線維芽細胞(CAF)に高発現していた。一方、近傍の正常組織の線維芽細胞はAEBP1を高発現していなかった。AEBP1発現は腫瘍径、リンパ節転移、ステージ、分化度、再発など相関を示すことから、AEBP1が腫瘍の進展および悪性化に関わることが示唆された。また、AEBP1発現はCOL1A1など多くのコラーゲンファミリー遺伝子の発現と高い相関を示すことがThe Cancer Genome Atlasなどのデータ解析から明らかとなった。臨床検体より採取した複数のCAFを用いて機能解析を行った。AEBP1をノックダウンした結果、CAFの細胞外マトリクス再構成能が低下することを、コラーゲンゲル収縮アッセイより明らかにした。またAEBP1をノックダウンしたCAFの遺伝子発現をマイクロアレイ解析した結果、細胞周期関連遺伝子の低下やp53経路関連遺伝子の上昇が認められた。またCAF由来のAEBP1ががん細胞に与える影響を解析するため、AEBP1をノックダウンしたCAFとがん細胞を間接共培養した結果、対照群と比較してノックダウン群においてがん細胞の遊走・浸潤能の抑制が認められた。コラーゲンゲルを用いた3次元培養系においても同様の結果が得られた。またがん細胞をリコンビナントAEBP1で処理することにより、遊走・浸潤能の促進が認められた。さらにAEBP1を過剰発現させたCAFとがん細胞を免疫不全マウスに共移植した結果、対照群と比較してxenograft腫瘍の増大が認められた。摘出後の腫瘍を免疫組織染色解析した結果、間質の増大やコラーゲンの高発現が認められた。
2: おおむね順調に進展している
臨床検体におけるAEBP1発現の特徴を明らかにすることができた。臨床検体から新たなCAFを採取・樹立し、実験系を充実させることができた。CAF由来のAEBP1が、CAFを活性化させるとともに、腫瘍進展を促進する働きがあることを明らかにした。
臨床検体からの正常繊維芽細胞ならびにCAFの採取と樹立を継続する。CAFにおけるAEBP1の分子機能をさらに検証すべく、AEBP1が細胞周期関連遺伝子およびp53関連遺伝子に与える影響の検証を行う。AEBP1発現と腫瘍内リンパ球浸潤との関わりを、臨床検体および培養細胞を用いた解析から明らかにする。
すべて 2023 2022 2021
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件)
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