研究課題/領域番号 |
21K08007
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
桑野 由紀 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 講師 (00563454)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 大腸がん / RNAメチル化 / RNAプロセシング / 超保存領域 / 選択的スプライシング / 非コードRNA / 機能性RNA |
研究開始時の研究の概要 |
高等生物ゲノムにのみ100%保存された超保存領域(ultraconserved region: UCR)はヒトゲノムに481か所存在するが、その生理的意義は不明である。 本研究では、UCRより転写されたRNA群(T-UCR)に焦点を当て、「がん細胞に特異的なT-UCRのRNAメチル化がトリガーする新規のがん悪性化メカニズム」を明らかにする。T-UCR RNAメチル化の網羅的解析と発現誘導シグナルの検索、T-UCRメチル化の細胞内動態の検出、T-UCRによる分化プログラム制御、の解析を目標に、進化の過程で超保存領域に込められた細胞恒常性維持システムとがん化機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
ヒトからマウスのゲノムにおいて200-bp以上連続して100%保存された、超保存領域(ultraconserved region: UCR)の生理機能は未だ明らかになっていない。これまでにUCRより転写されるRNA群 (Transcribed-UCRs: T-UCRs)の一部は、がん悪性化を引き起こす“oncogenic RNA”であることを見出している。本研究課題では、スプライシング調節因子をコードするTRA2B遺伝子より転写されるT-UCR:uc.138が大腸がん細胞の核に蓄積するメカニズムを明らかにするため、RNAのメチル化(Methyl-6-adenosine(m6A))修飾とRNAの細胞内ダイナミクスの調節の解明に焦点を当てた。 2022年度は計画通りに、① 大腸がん細胞におけるメチル化RNAの次世代シークエンスによる網羅的解析(MeRIP-seq)、② oncogenic RNA uc.138のメチル化配列の特定と結合タンパク質の同定、が完了した。さらに、③ Mettl3の特異的阻害剤(STM_2457)を使用したm6A阻害によるがんのフェノタイプへの影響、を確認した。新規に確立した実験手法では、共焦点レーザー顕微鏡を使って蛍光免疫染色したm6A RNAの検出方法を樹立し、細胞内での局在が詳細に検討できるようになった。以上より、大腸がんで亢進するメチル化RNAの同定と、細胞内ダイナミクスの変動を捉える目的の一端が期間内に明らかにできた。 今後は、現在進行中であるヒトiPS細胞より形成した腸管オルガノイドを用いて、未分化・分化段階におけるRNAメチル化ステータスの検討等を行い、RNAメチル化の大腸がんにおける臨床医学的意義の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スプライシング調節因子SR(セリン/アルギニン)タンパク質ファミリーのひとつTRA2B遺伝子領域の超保存領域(UCR)uc.138から転写されるRNAは、正規タンパク質に翻訳されず、正常組織にはほとんど発現していないことを明らかにしている。これまでの研究において、uc.138 RNAは大腸がん組織に高発現し、細胞増殖と浸潤能に寄与すること、マウス腫瘍移植モデルにて腫瘍形成を有意に促進することを見出した(Kuwano et. al., Sci Rep. 2021)。Uc.138安定過剰発現細胞を用い、核内RNA結合タンパク質hnRNP AやSAF-A等のグアニン四重鎖(G-quadruplex)構造を調節する核内因子と結合することを発見した(Nishikawa et. al., BBA Gene Regul Mech., 2021)。 2022年度においては、「がん細胞に特異的なRNAメチル化スイッチがトリガーとなる新規のがん悪性化メカニズム」を目標に、① 大腸がん細胞におけるメチル化RNAの網羅的解析(MeRIP-seq)、② oncogenic RNA uc.138のメチル化配列の特定と結合タンパク質の同定、が完了した。さらに、③ Mettl3の特異的阻害剤(STM_2457)を使用したm6A阻害によるがんのフェノタイプへの影響、④ m6Aメチル化を化学修飾したT-UCR RNAをビオチンラベルし、hnRNP ファミリーやYTHDFファミリーを標的として相互作用する因子の同定を行った。また、uc.138 の機能的メチル化アルギニンサイトの同定、RNAメチル化酵素Mettl3、Mettl14、メチル化関連因子のがんにおける発現スクリーニング、を行い大腸がんのRNAメチル化を促進する因子を同定できた。以上の結果より、これまでは研究計画通りに検討が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、大腸がんの悪性化にRNA修飾が関与する可能性を見出し、RNAメチル化阻害剤による大腸がん細胞増殖の抑制効果も確認できた。また、大腸がんにおけるRNAの修飾が、超保存領域を含むRNAの安定性や局在に影響を与えている可能性を見出している。現在はRNA-seqを用いて、大腸がん細胞において特異的にメチル化されるRNAと、RNAメチル化阻害剤により発現プロファイルが変化するRNAを網羅的に解析し、大腸がん関連RNA修飾の治療・診断標的になるRNAの情報を蓄積している。今後の研究では、組織中のm6Aメチル化RNA量を検出するm6A RNA dot blotを用い、ステージの異なるがん検体のRNAメチル化量を比較検討し、新規バイオマーカーとしての可能性を検討する。また、ヒトiPS細胞より形成した腸管オルガノイドを用い、分化におけるRNAメチル化ステータスを解析する。さらに、RNA-seqによる網羅的解析より抽出した、大腸がん特異的RNAメチル化配列をもとに、大腸がん細胞の悪性化フェノタイプに関与するアンチセンス核酸配列のスクリーニングを遂行する予定である。
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