研究課題
基盤研究(C)
ピロリ菌は、胃癌をはじめとする消化器疾患を引き起こす。しかし、実際には、ピロリ菌感染者の数%しか胃癌を発症せず、生涯を通じて殆ど症状が現れない不顕性感染例も多く存在する。また、本邦では、すべてのピロリ菌感染胃炎患者に対する除菌治療が保険収載となって以降、全国的な除菌治療が実施されているにも関わらず、未だに、胃癌は、本邦における部位別がん死亡率の上位である。即ち、ピロリ菌除菌=胃癌発生ゼロではなく、ピロリ菌感染以外にも発がんに関与する因子が存在することが伺える。そこで本研究では、トランスオミクス解析という新たなアプローチにより、胃癌発症機序およびピロリ菌未感染胃癌の解明に挑む。
本研究では、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)と異なる機序で胃癌の発症に関与する新たな細菌を分離同定した。さらに、生体内の環境により類似する、胃オルガノイドを用いて、本菌が胃癌発症のトリガーとなるDNA二本鎖切断を活性酸素の誘導を介して引き起こすこと、さらに、DNA損傷応答経路を抑制することを明らかにした。また、ピロリ菌の外膜タンパク質の遺伝型に起因する定着機序の違いが、胃内粘膜層における環境を左右し、胃・十二指腸疾患の発症に関与すると考えられる他の細菌叢の定着や構成に影響を与えていることが示唆された。
ピロリ菌は、胃癌や消化性潰瘍の原因微生物として広く認知され、現在、国内では積極的な内視鏡検査と除菌治療が進められている。一方で、ピロリ菌未感染胃癌や除菌後胃癌など、これまで注目されてこなかった病態の存在が浮き彫りになり、科学的な検証が必要である。本研究では、ピロリ菌以外の病原微生物の存在やその病原性を明らかにし、ピロリ菌が胃内のその他細菌叢の構成をどのように制御しているのかを実験的に示すことができた。今後、関連する胃・十二指腸疾患の臨床疫学データの蓄積が進み、予防策の立案に繋げるなど社会還元を期待する。
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