研究課題/領域番号 |
21K08101
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53020:循環器内科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大橋 浩二 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (10595515)
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研究分担者 |
大内 乗有 名古屋大学, 医学系研究科, 特任教授 (00595514)
室原 豊明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (90299503)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | アディポリン / 虚血性心疾患 / 慢性腎臓病 / 臓器間ネットワーク |
研究開始時の研究の概要 |
肥満はメタボリックシンドローム、心血管病、慢性腎臓病の重要な発症基盤である。近年、分泌因子による臓器間ネットワークが注目されており、肥満状態では、脂肪組織の慢性炎症がアディポカインの調節障害を引き起こし、肥満関連疾患の病態を促進することが明らかになってきている。本研究では、申請者等が同定した新規の抗炎症性アディポカイン、アディポリンの虚血性心疾患、慢性心不全、慢性腎臓病に対する作用について遺伝子改変マウスを用いて解析する。さらにその分子機序を培養細胞を用いて詳細に解析を進める。
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研究実績の概要 |
肥満はメタボリックシンドローム、心血管病、慢性腎臓病の重要な発症基盤である。近年、分泌因子による臓器間ネットワークが注目されており、肥満では脂肪組織の慢性炎症がアディポカインの調節障害を引き起こし、肥満関連疾患の病態に関与することが報告されている。本研究では、肥満によってその発現が低下する新規アディポカインであるアディポリンの心筋リモデリング、慢性腎臓病(CKD)に対する作用について、遺伝子改変マウスを用いて個体レベルで明らかにし、その分子メカニズムを細胞レベルでも明らかにする。心筋リモデリングに関しては、アディポリン欠損(APL-KO)マウスと野生型(WT)マウスに心筋梗塞モデルを作製し、4週間後にエコー検査、組織学的評価を施行したところ、APL-KOマウスはWTマウスと比較して心機能低下を認め、心筋細胞肥大や間質繊維化等、心筋リモデリングの増悪を認めた。アディポリンの全身投与で心筋リモデリングが改善することも見出し、分子メカニズムとしてはAktシグナルを介して心筋細胞のアポトーシスと炎症性応答を抑制することを見出した。CKDに対する作用としては、CKDモデルである5/6腎摘手術をAPL-KOマウスとWTマウスに施行し、8週間後の腎機能を評価したところ、APL-KOマウスはWTマウスと比較して、尿中アルブミン排泄の増加と血中尿素窒素(UN)の上昇を認め、間質の繊維化や炎症性応答、酸化ストレスの上昇を認めた。一方アディポリンの全身投与により腎機能は改善した。メカニズムとしてはアディポリンがPPARαを活性化し、その標的遺伝子でありケトン体産生の主要酵素であるHMGCS2を増加させることによりケトン体産生が増加し、上昇したケトン体がCKDモデルで上昇するインフラマソームを抑制し炎症性応答や酸化ストレスを抑制することにより、腎保護作用を発揮することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性腎臓病(CKD)におけるアディポリンの作用に関して、アディポリン欠損(APL-KO)マウスと野生型(WT)マウスにCKDモデルである5/6腎摘手術を施行し評価したところ、APL-KOマウスはWTマウスと比較して尿中アルブミン排泄や血中尿素窒素(UN)の上昇を認め、腎臓組織における間質繊維化、尿細管細胞のアポトーシス、炎症性応答や酸化ストレスが上昇することを見出した。アディポリンのin vivoにおける全身投与や、培養近位尿細管細胞、タコ足細胞への添加により、転写因子であるPPARαが活性化され、そのターゲット遺伝子でありケトン体産生の律速酵素であるHMGCS2が増加することと、それに伴うケトン体産生の増加が、内因性炎症であるインフラマソームを抑制することにより、炎症性応答と酸化ストレスが抑制されることを見出した。さらにアディポリンによる腎保護作用が、PPARα欠損マウスで消失することや、培養近位尿細管細胞においてsiRNAによるPPARα阻害によりキャンセルされることより、アディポリンの腎保護作用はPPARαを介していることも明らかにした。ここまでの知見により2023年4月にiScience誌にアクセプトされ現在in pressであり、研究は順調に進展している。一方でアディポリンがPPARαを活性化するメカニズムに関しては、近位尿細管細胞におけるアディポリンのインフラマソーム抑制作用が、アディポネクチン受容体の一つであるAdipoR2のsiRNAによる阻害によりキャンセルされることのみ見いだしているが、今後創薬に繋げるという観点から、アディポリンがAdipoR2に直接結合するか、間接的に作用しているのかも含めた詳細な解明が必要であり、さらにAdipoR2を介さない作用についての評価も含め解析を進める必要があり、全体として概ね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
慢性腎臓病に対するアディポリンの防御作用のメカニズムとして、PPARα/HMGCS2を介したケトン体産生が、内因性炎症としてインフラマソームを抑制することで、炎症性応答や酸化ストレスを抑制することを今回新たに見いだしている。ケトン体による臓器保護作用に関しては、脳や心臓等でも報告されており、インフラマソームが慢性腎臓病以外にも、自己免疫疾患や心血管病など様々な疾患に関与することが報告されてきていることから、アディポリンによる心筋リモデリングや慢性腎臓病に対するさらなる詳細なメカニズムの解析は、様々な疾患、病態に対する新たな治療ターゲットを見出すことに繋がることが期待される。具体的には、アディポリンがPPARαを活性化するメカニズムに関しては、近位尿細管細胞においてアディポネクチン受容体の一つであるAdipoR2を介する可能性を見出したが、さらにアディポリンがAdipoR2に直接結合するのか、間接的にAdipoR2を介しているのかの解析を進める予定である。またPPARαの活性化が様々な疾患の治療ターゲットになりうるかに関してもPPARα欠損マウスを用いて解析を進めるとともに、PPARαの選択的モジュレーターであるペマフィブラートを用いた心筋リモデリングや慢性腎臓病モデルに対する作用の解析も進める予定である。さらにインフラマソーム阻害剤であるMCC950の心筋リモデリングや慢性腎臓病に対する作用も解析を進める予定である。
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