研究課題/領域番号 |
21K08148
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53030:呼吸器内科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
玉田 勉 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (80396473)
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研究分担者 |
村上 康司 東北大学, 大学病院, 助教 (70633725)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 気道分泌 / COPD / 粘膜防御能 / 脆弱性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は臨床的に対応が困難であったウイルス・細菌感染に伴うCOPD増悪の予防およびCOPDに対する吸入ステロイド投与後の気道感染の抑制を目的とする。申請者らの保有する独自の実験システムおよび協力者施設の網羅的解析システムを活用し、ヒトおよびヒト類似ブタ気道を対象として新鮮分泌液の質的特性やその抗菌活性、粘液線毛運動等への影響などを包括的に解析し、気道粘膜防御能の未知の脆弱性機序を解明する。気道分泌液の網羅的解析による新規物質の探索も並行して行うことで新たな治療標的分子および治療薬候補を同定しその効果を確認する。以上により、全てのCOPD増悪予防を実現する新規治療法開発の基礎を提供する。
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研究実績の概要 |
社会の高齢化が加速を続けるとともにCOPDによる入院や死亡者数は年々増加している。COPD増悪頻回例は喀痰の多い症例に多く、症状悪化、呼吸機能低下、死亡率上昇のほか、本人や家族への労働生産性の低下や医療費増加をもたらす。COPD増悪病態は、細菌・ウイルス感染および好酸球などが関与し、それぞれ長時間作用性気管支拡張薬および吸入ステロイドのより一定の増悪抑制効果が認められているものの、COPD増悪を未だ完全に制御できてはいない。COPD増悪に関わる医療費は年間約6,000億円とCOPD全体の約75%を占めるとの試算もある。2019年から開始された国の費用対効果評価制度においてもCOPD治療薬が評価対象となるなど、COPD疾患予後の改善に加え医療資源の有効活用・医療費抑制のためにも、COPD増悪抑制は今後の治療戦略において急務である。COPDでは気道粘膜防御能が脆弱であり、現時点でその脆弱性を改善する根本的治療法が存在しないことが要因の一つである。本研究の主題は、気道感染に伴うCOPD増悪予防に対する包括的治療戦略として、①気道粘膜防御能の脆弱性に影響する質的変化の特定、②新鮮気道分泌液の特性最適化による脆弱性の改善、③全てのCOPD増悪予防を可能とする新規治療法の開発である。研究代表者らによるこれまでの研究実績から、気道粘膜防御能の向上・維持には気道分泌腺からのHCO3-分泌によるpH調節や抗菌活性保持などの質的特性の最適化が重要であることが明らかにされている。本研究ではこの質的異常と気道粘膜防御能脆弱性との関連を明らかにし、細菌やウイルスに対する易感染性を改善する治療薬開発への基礎を提供する。感染に伴うCOPD増悪やICS投与中の気道感染を制御することで、全てのCOPD増悪予防を目的とした安全で有効な新規治療法の確立と早期臨床応用を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、中枢および末梢気道の線毛運動に伴う粘液繊毛輸送能の測定を蛍光マイクロビーズによって測定することが可能な蛍光実態顕微鏡撮影システムを構築すること平衡して、我々が以前に開発したブタ気管粘膜面での新鮮分泌液の可視化システムを利用した新鮮気道分泌液の量的および質的調節機序について、定常状態(ACh単独)と炎症状態 下(ACh+LPS)での解析を繰り返し行っている。特にLABAあるいはLABA/LAMA併用での影響など概ね予定通りのプロトコルで統計学的に十分な解析ができるレベルのデータ数を得て、その一部を欧州生理学雑誌に報告しつつ、国内学会等でも発表してきた。気道分泌腺管腔側に存在するCFTRチャンネルは刺激の種類によってCl-分泌だけでなくHCO3-分泌も行うことが知られているが、我々は、炎症惹起物質であるLPS存在下ではCFTRチャンネルからのHCO3-分泌が阻害されること、また、CFTRチャンネル分子の発現自体も低下することを初めて明らかにした。その結果として分泌液pHの病的酸性化が生じるが、、CFTR特異的阻害薬でも同様の分泌液pH酸性化を認めることも示した。気道分泌液の病的酸性化は、臨床的には粘膜に存在する種々の抗菌タンパクの活性を低下させ、ムチンの適切な粘調度が破綻して硬いムチンとなり、さらには気道被覆液の緩衝能(Buffer Capacity)が低下することで環境変化(気道感染、胃酸など)の変化に対して適切なpHを維持することが障害され、結果として気道易感染性や炎症の遷延からCOPD増悪に至ることが推定される。気道分泌液の正常化により、本研究の主題であるCOPDにおける気道粘膜防御能の脆弱性の改善を可能とする新規治療法の確立を推進する基盤を構築する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、新規に購入した蛍光実態顕微鏡撮影システムを用いて、中枢および末梢気道の線毛運動に伴う粘液繊毛輸送能の測定を蛍光マイクロビーズによって測定する。また、令和4年度から継続して行っている、既に構築済みの新鮮分泌液のリアルタイム観察実験系および分泌解析システムを用いてブタ気管(中枢気道)の健常状態およびCOPD増悪類似条件における新鮮気道分泌液質的特性変化の相異を確認する。分泌液の質的変化はpH特異的蛍光色素SNARF-1、イオン交換樹脂含有微小電極で解析する。宿主側が有する主なpH調節分子としてCFTRからのHCO3-分泌、プロトンポンプからのH+分泌などを想定し、外的調節因子としてウイルスや細菌成分であるTLRsリガンド、LABA、LAMA、両者併用、マクロライド系抗菌薬、強力な還元物質や抗エラスターゼ効果を有する物質などを想定して解析を行う。また、COPD増悪は末梢気道が主座であることから、近年注目されている末梢気道の評価のためにブタ末梢気道を含む肺胞領域の組織を用いて、気道被覆液のpH変化が末梢気道でどのような調節機序で行われているか、そのメカニズムを明らかにする。さらに、研究代表者らが保有する高解像度・高速度カメラ付顕微鏡観察システムを用いた末梢気道の粘液線毛運動の測定によるデータの補強も行う。分泌液の抗菌蛋白活性やsIgA分泌の定量化、細菌増殖阻害実験など多方面からの解析を行い、粘膜防御能脆弱化メカニズムの評価を行う。さらに、ヒト手術検体の中枢気道および末梢気道を用いて、ブタ気道で得られた変化の再現性を証明することも含め、新規治療薬開発への基礎を提供する。以上のような検討から得られた結果を取りまとめ成果の発表を行う。
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