研究課題/領域番号 |
21K08213
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53030:呼吸器内科学関連
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
桑野 和善 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (40205266)
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研究分担者 |
荒屋 潤 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (90468679)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 加齢 / 慢性閉塞性肺疾患 / 特発性肺線維症 / オートファジー / 細胞老化 / senotherapy / COPD / IPF / TFEB / PPARα |
研究開始時の研究の概要 |
IPF、COPDの根本的な治療法は存在しない。これら病態に共通する不十分なオートファジー・リソソーム系を標的とした新規治療法開発が本研究の目的である。オートファジー・リソソーム系を標的とする場合、マスター調節転写因子とされるTFEBに注目することは合理的であり、かつTFEB発現を誘導するPPARα modulatorは臨床現場で広く使用されている抗高脂血症の薬剤であるため、drug repositioningとしての臨床手応用の実現可能性が高い点は重要である。これまでオートファジー・リソソーム系を標的とした治療法は実用化されておらず、学術的にも独自性・創造性に富む研究と考える。
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研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)はともに加齢関連呼吸器疾患であり、不十分なオートファジー分解及び細胞老化の亢進が病態進展に関与する。Transcription factor EB(TFEB)は、オートファジー・リソソーム系制御の中心的な調節転写因子である。今回我々は、PPARαmodulator であるPemafibrateがTFEB発現増加によりオートファジー・マイトファジーを亢進させ、抗細胞老化作用を示すことでCOPDやIPF病態進展を抑制する可能性を明らかにした。PPARαmodulatorが加齢関連呼吸器疾患に対する新規Senotherapyとなる可能性が示唆された。
研究成果の学術的意義や社会的意義: 加齢関連疾患であるCOPD及びIPFは、細胞老化の亢進が病態に関与する、治療抵抗性呼吸器疾患である。今回PemafibrateがTFEBの発現誘導を介して、抗細胞老化作用を示し、特にCOPD病態進展を抑制する可能性が示された。新規のSenotherapy開発につながる知見が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①喫煙暴露COPDモデル及びマウスブレオマイシン肺線維症モデルに対するpemafibrateの有効性の検討(動物モデル):COPDモデルとして、6か月間の喫煙暴露により、肺気腫様病変の進展を確認できた。pemafibrateによるTFEB発現を介したオートファジー・マイトファジーの亢進が、抗細胞老化作用により、肺気腫様病態進展を抑制している可能性が示唆された。IPFモデルで、ブレオマイシン投与により、形態学的及びヒドロキシプロリン測定により肺線維化が誘導され、day7からのpemafibrateの混餌投与により有意な抑制が認められた。その機序に関しては現在さらに検討中である。 ②TFEB発現制御とpemafibrateによる、喫煙刺激誘導性細胞老化制御の検討(培養系): CSE刺激は気道上皮細胞においてTFEB発現及び、その核内への移行を誘導した。TFEBをノックダウンすると、CSEによるオートファジー活性化が抑制され、細胞老化誘導が亢進した。喫煙刺激によるTFEB活性化はオートファジー誘導により細胞老化に対して抑制的に作用していた。pemafibrateは濃度依存性にTFEB発現を誘導し、オートファジーを活性化した。CSE刺激により誘導されるオートファジー・マイトファジー活性化をpemafibrateは、さらに増強させ、細胞老化を抑制した。TFEBノックダウンにより、pemafibrateのマイトファジー誘導および細胞老化抑制は認められなくなった。 ③COPD肺組織におけるTFEB発現の検討 過去のマイクロアレイのデータベース解析を行い、COPD肺でのTFEB発現低下を認め、分離した気道上皮細胞でも、current smokerでの発現低下が認められた。さらにCOPD肺の気道上皮細胞において有意なTFEB発現低下が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
COPD、IPFはともに加齢関連呼吸器疾患であり、不十分なオートファジー分解及び細胞老化の亢進が病態に関与すると考えられている。今回我々は、オートファジー・リソソーム系制御の中心的な調節転写因子であるTFEBの役割に注目し、その誘導作用を持つ可能性のあるSPPARMαであるpemafibrateを用いた検討を行った。 pemafibrateは、COPDモデルマウス、IPFモデルマウスの両方で、病態進展抑制効果を示した。特にCOPDモデルマウスにおいては、細胞老化の抑制作用を認め、TFEB発現増加によるオートファジー・マイトファジーの亢進が関与する可能性が示唆された。 培養細胞を用いた詳細な検討から、喫煙刺激で活性化されるTFEBは、オートファジー・マイトファジー活性化に重要であることが示された。pemafibrateは、TFEB発現増強によるオートファジー・マイトファジー活性化を介して抗老化作用を示すことが明らかとなった。つまり本研究結果からはPPARαmodulatorが高脂血症治療薬としてだけはではなく、COPDに対する新規の抗細胞老化治療となりうる可能性が示されたと考えている。今後は呼吸器疾患治療薬として、吸入療法など、肺局所療法の開発が重要な課題となる。 しかしながら、PPARα活性化薬にもFGF21を介する作用など様々な機序も存在し、TFEB以外の作用機序解明も今後の検討課題である。さらにIPFモデルでも抗線維化作用を認めたが、その作用機序に関しては明らかでなく、今後詳細な検討が必要であると考えている。
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