研究課題/領域番号 |
21K08249
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53040:腎臓内科学関連
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
森 崇寧 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (00735813)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | UMOD / 高血圧 / ADTKD / 遺伝子研究 / 次世代シークエンサー / 嚢胞腎 / ウロモジュリン / 高血圧症 / 遺伝子解析研究 |
研究開始時の研究の概要 |
UMOD分泌刺激として新たに発見したバゾプレシンシグナル、極性付きMDCK細胞によるin vitro実験系、ADTKD変異体のUMOD分泌挙動変化に関する知見を足掛かりとして、UMODの生理的な分泌制御機構をさらに探究し、さらに変異遺伝子の病態メカニズムの解明を目指す。
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研究実績の概要 |
我々は独自に構築した次世代シーケンサー(NGS)による網羅的腎臓病遺伝子パネル検査にて、様々なCKDの遺伝子背景を明らかにすべく研究活動を続けている。UMOD(Uromodulin)はADTKD(Autosomal Dominant Tubulointerstitial Kidney Disease)などの希少腎疾患原因遺伝子だが、UMODの生理的な分泌制御機構や、変異遺伝子の病態メカニズムについては未だ不明な点が多い。我々はAVP(Arginine vasopressin)がcAMP, PKA活性化を介してUMODの尿中分泌を制御する重要な生理的因子であることを発見しHypertension誌に報告した(Nanamatsu A, Mori T, et al. Hypertension, 2021)。変異UMODの病態生理学的機序を解明することに関し、引き続き培養細胞系での検証を行なった。細胞膜上の凝集現象がcAMP刺激薬であるDDAVPやforskolinで改善されるかを検討したが、その変化は乏しかった。さらにOxford大学との共同研究にて、ADTKDの表現系を呈する既報のUMOD+/C125R変異ノックインマウスを入手し、in vivoでの検証を引き続き検討している。 並行して、ADTKDを含むCKD患者にNGSパネル遺伝子スクリーニングを継続しているが、家族歴を有さない多発腎嚢胞(PKD)患者のうち、責任遺伝子が同定されなかった47名に全ゲノムシークエンス(WGS)を実施し、3名に共通して遺伝子Aに病的バリアントが存在することを見出した。遺伝子AはX染色体遺伝子であり3名は全て男性であることからX連鎖遺伝形式のPKDという希少な概念となる。基礎的検証結果を含め2023年米国腎臓学会で報告、また論文執筆予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は独自に構築した腎臓病遺伝子パネル検査を活用し、様々なCKDの遺伝子背景を明らかにすべく研究活動を続けている。従来未解明であったUMODの生理的な尿細管分泌刺激因子としてAVPを同定し、Hypertension誌へ報告した(Nanamatsu A, Mori T, et al. Hypertension, 2021)。同時に本学プレスリリースも行った。真にUMODの関わる病態生理へのより深い理解や、創薬標的としての検証を行う上でも重要な知見を得たといえる。 並行して、ADTKDを含むCKD患者にNGSパネル遺伝子スクリーニングを継続しておりいくつかの興味深い知見を得ている。2022年度は計123件のNGSパネル遺伝子検査を実施した。家族歴のない154名の成人多発腎嚢胞(PKD)患者について69~92遺伝子を含むパネル検査を実施し、責任遺伝子が同定されなかった47名について米国ワシントン大学との共同研究のもとその全員に全ゲノムシークエンス(WGS)を実施したところ、3名に共通して遺伝子Aに病的バリアントが存在することを見出した。遺伝子Aは確かにヒト腎臓尿細管ciliaに存在することを確認し、Fudan大学Prof. Feng Zhangらとの共同研究で、遺伝子Aのノックアウトマウス腎臓を検証した結果、尿細管上皮細胞の空胞化ならびに尿細管腔の拡張を認め、全く新しい嚢胞腎の責任遺伝子であると考えられた。この他2022年に多発嚢胞腎の新たな遺伝子変異型として報告されたIFT140のヘテロ接合性変異について検証したところ、前述のコホート97名のうち6名(6%)に同遺伝子の病的バリアントを同定し、PKDでの存在意義を示した。これらは2023年米国腎臓学会で報告、論文執筆予定である。CKDの遺伝子解析を通じて、複数の新たな発見を得ており、社会・医学的意義は大きいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
UMODについてはin vivo病態モデル(UMOD+/C125R変異KIマウス)を駆使した検討を引き続き実施する予定であるが、in vitro実験において予想していたDDAVPやforskolin刺激による膜凝集体変化が乏しいという結果が出ており、一方で前述した通りパネル遺伝子解析の方で複数の有用な知見を得ており、次年度はこちらにエフォートをシフトさせる可能性はある。 新たな多発腎嚢胞原因遺伝子Aについては、嚢胞形成に関与すると言われるciliaの長さに変化を与えるか、腎サイズや重量にはどのように影響するか等ノックアウトマウスを用いた検証を引き続き実施することに加え、in vitroでは変異ベクターを作成し強制発現系やHalo-tag付加によるchase assayによって、変異体蛋白発現量の変化や安定性を検証する予定である。腎臓病分野において重要な知見であり、早期の論文化を目指す。さらにIFT140についても本邦のPKDにおける高い変異保有率を示したという意味で意義深く早期の論文化を目指すが、さらに多くの症例を蓄積し、治療反応性等の観察研究までを目標としたい。これら嚢胞性疾患に限定せず引き続き腎臓病パネル遺伝子検査を継続する予定である。 また、UMODに加えもう一つADTKDのメジャーな原因であるMUC1リピート領域(VNTR)変異については、従来のサンガー法やNGSでの検出が困難であることから正確な変異保有率が解析出来ておらず、昨年に引き続きOxford Nanopore社のMinIONウルトラロングリードシークエンサーを用いて安価かつ迅速な変異検出法構築を試みている。実現すればこれまで以上にADTKDの診断効率は改善し、MUC1変異をターゲットとした治療方策の検討にも有用であると考えられる。
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