研究課題/領域番号 |
21K08380
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54010:血液および腫瘍内科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
日だい 智明 日本大学, 医学部, 教授 (70228732)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 炎症 / 虚血 / 凝固因子 / STAT3 / interleukin 6 / 脳梗塞 / 凝固第IX因子 / activation peptide / 血管内皮細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
脳卒中は死因の第4位を占めるばかりではなく、回復しても麻痺などの後遺症に苦しむことが多い。脳に起こる障害は、血管病変により血流が遮断された時だけでなく、その後も徐々に進行することが知られており、血管内皮細胞の障害により血管内から脳組織内に遊走する物質や細胞が原因と考えられている。血液凝固に関わる血漿タンパクである凝固第IX因子の一部(activation peptide)の機能はこれまで知られていなかったが、これに血管内皮機能を保護する作用があることを我々は発見した。本研究では、このタンパクによる脳梗塞の治療効果について検討する。
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研究実績の概要 |
血液凝固第九因子(FIX)は流血中を循環しているタンパクで、創傷が生じるとactivation peptide(F9-AP)が切断されて活性化し、血液を凝固させる。我々は、非活性型のFIXやF9-APが血管内皮の透過性を抑制することを発見した。また、化学合成したF9-APを静脈内投与することにより、敗血症モデルでの肺水腫や脳外傷モデルでの脳浮腫が改善することを示した。本研究では、in vitro、in vivoの虚血モデルや炎症モデルを使用し、F9-APがinflammaraftの形成を阻害し、同時に複数のシグナル伝達を抑制することを示す。また、F9-APの投与が、脳虚血モデルにおいて治療的に有効であるか検討する。 当該年度には、虚血や炎症で重要な役割を担う血管内皮細胞を培養し、covid-19でも血管障害の主たる因子と考えられているinterleukin6(IL6)刺激に対するF9-APの効果を検討した。ヒト臍帯静脈内皮細胞に対してIL6を投与し、IL6の下流で働く転写因子STAT3の局在を免疫染色で確認した。対照群では、STAT3はIL6刺激により核内に移行したが、F9-APの添加はそれを抑制した。ウエスタンブロットで、タンパク量を評価したところ、F9-APの添加によるSTAT3総量の増減はなかった。従って、F9-APは、STAT3の核移行を抑制して、IL6のシグナルを抑制すると考えられた。炎症による血管障害には凝固亢進がつきものである。内皮細胞の凝固反応で活性化されるトロンビンを添加し、F9-APの効果を調べた。F9-APは、トロンビンによるRho-ROCK系シグナルを阻害し、細胞骨格のリモデリングを抑制した。これらの結果から、F9-APが独立した複数の炎症に関するシグナルを抑制するという仮説が実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重症炎症では強い組織破壊が起こり、多数の分子が関与した複雑な反応が起こる。それらの反応はネットワーク化し、一分子の機能を阻害してもリークが生じるために十分な効果を得ることが難しい。また、一度反応が広がると、原因が除去されても反応は自動的に増悪することも多い。重症のcovid-19、敗血症、播種性血管内凝固症候群などの炎症性の病態が未だに治療抵抗性であるのはこのためである。F9-APはそうした複雑な反応を同時に抑制することが期待される。 当該年度においては、in vitroの実験系を用いて、本研究の基盤となる仮説を検証した。すなわち、F9-APが、単独で、複数の分子によるシグナル伝達を抑制する、という仮説である。F9-APは、代表的な炎症性サイトカインであるIL6や、炎症に伴って活性化され致死的な反応を起こす血液凝固タンパクであるトロンビンのシグナルを抑制した。二つのリガンドは、異なるシグナルの系路を持ち、細胞内のターゲットも、IL6は転写因子、トロンビンは細胞骨格と著しく異なっている。この二つの系をF9-APが同時に抑制したことは、本研究の仮説がvitroでは正しいことを示している。次年度に計画している、in vivoの実験の成功をサポートする結果である。3年間の研究の1年目に仮説の正しさが示唆されたことから、おおむね順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、in vivoの実験系として、脳虚血モデルを用いて、F9-APの治療効果について検討する。脳梗塞は、脳血管の閉塞によって脳組織が壊死に陥る疾患である。早期の血行再建により予後が改善するが、現実には十分早期に血流再建療法を受けられる患者は、全患者の5%以下である。地方では、専門病院までの距離が長いため、これ以上の改善は難しい。そのため、開始が遅れても、神経学的機能の改善を得られる治療法が望まれる。 F9-APは、複雑な炎症反応により二次的な組織破壊が生じる脳挫傷の治療に高い効果をしめした。脳梗塞後の組織でも二次的な組織破壊は生じており、その抑制が有効な治療に結びつくと期待される。今後は、脳梗塞の動物モデルを利用して、F9-APの治療効果を検討する。さらに、in vitroの実験も行い、F9-APの治療機序についても検討する。
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