研究課題
基盤研究(C)
多発性骨髄腫(骨髄腫)は、多様なDNAの異常が病気の発症・進展に関わる難治性疾患である。本研究ではPDZ-binding kinase (PBK)を標的とした創薬を目指すために、PBKノックアウトマウスの表現型解析、薬剤スクリーニングによるPBKを標的とした新たな化合物の探索、新規MM悪性化分子の機能解析をおこなう。さらに、PBK阻害剤による抗腫瘍効果の解析と、次世代シーケンサーによる遺伝子(発現)異常の解析をおこなうことにより、PBKと骨髄腫の分子病態との連関を解明する。本研究は、難治性骨髄腫の新たな分子病態の解明に基づいた創薬を主眼としており、その波及効果は極めて高い。
背景:多発性骨髄腫(以下MM)の病態は多様であり、再発のMM患者を根治できる治療は無く、分子病態に基づく新たな治療戦略の構築が望まれている。代表者は、Mゲノム編集法や遺伝子発現解析を用いて新規予後不良因子としてPDZ-binding kinase(以下PBK)を発見した。本研究では、PBKノックアウトマウスを用いた生理学的機能の解明、PBK関連分子の同定、新たな作用機序を有する新規治療薬の創出を目指した。結果:PBK遺伝子破壊(PBK-KO)マウス組織を用いた包括的遺伝子発現解析によって、PBKの破壊ががん遺伝子の活性を低下させることを見出した。また、生体内でPBKが老化に伴う糖代謝変化に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、公共のデータベース等を利用したサブ解析から、新規MM悪性化遺伝子FIRRMを見出した。ゲノム編集法によって、樹立したFLAGタグノックイン細胞株と高感度質量分析によって、FIRRMとタンパク間相互作用を示すDNA組み換え修復関連遺伝子FIGNL1の同定に成功した。インビトロにおけるゲノム編集効率評価法を用いてDNA修復能を解析した結果、FIRRM遺伝子を破壊したがん細胞では二本鎖DNA切断後に誘導される相同組換え効率が顕著に減少し、FIRRM-FIGNL1の相互作用はMM細胞の生存率やDNA傷害を誘導する薬剤の感受性に密接に関わる可能性が高いと結論付けた。さらに、1500個の阻害剤ライブラリーを用いた薬剤感受性試験の結果、PBKの高発現は、レナリドミドによるMM細胞の生存率低下に寄与することから、PBKはMM細胞の薬剤感受性因子であることが示唆された。将来の展望:PBKやFIRRM-FIGNL1の発現はお互いに相関し、その高発現は薬剤感受性を低下させる。これらの分子に対して特異的に作用する創薬はMMの新規治療薬となる可能性が高い。
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