研究課題
基盤研究(C)
現在、糖尿病治療薬の一つとしてSGLT2阻害薬が実臨床で多くの患者さんに利用されている。SGLT2阻害薬は尿糖排泄を促進することで、体重増加抑制効果、血糖改善効果を有する。一方で、様々な動物種で経口的なカロリー制限が寿命延長に寄与すると報告されている。本研究では、経口的なカロリー制限ではなく、SGLT2阻害薬による尿糖排泄という「間接的カロリー制限」が寿命及び加齢現象に及ぼす影響を明らかにすることを主旨としている。また、若年期からSGLT2阻害薬を投与することで寿命・老化現象に及ぼす影響に加えて、中・壮年期からSGLT2阻害薬を投与することで寿命・老化現象に及ぼす影響に差がないかを検討する。
本研究の目的は、SGLT2阻害薬による長期の体内エネルギー利用制限効果が加齢現象に及ぼす影響を明らかにし、そこに寄与する分子機構について詳細解明を行うことにある。(1)若年期より1年間のPair feedingを行ったマウスのサンプリングを行っている。非常に興味深い事に血中のMDA濃度はSGLT2阻害薬投与群で有意に低下しており、寿命延長の作用機序の一部を説明しうるものと考えられた。サンプリングした骨格筋をRNA-seqを行い、骨格筋における老化現象を説明しうる分子機構を解 明しようとしたが、RNA-seqでは明らかに有意な遺伝子発現変化を認めなかった。肝臓、脂肪組織などで組織学的検討を行っているが、SGLT2阻害薬投与群で有意 に脂肪肝は改善しており、繊維化も抑制されていた。脂肪組織においては脂肪細胞サイズは投薬群で縮小しており、マクロファージ浸潤も抑制されていることが 判明した。長期にわたる介入試験であり、寿命延長に及ぼすkey moleculeの同定には至っていないが、テロメア長の延長効果は確認できている。 (2)中、壮年期からPair feedingを行い、SGLT2阻害薬が寿命延長に寄与するかの検討を行う為、マウスに1年間高脂肪食を与えて、その後Pair feedingによる SLGT2阻害薬投与を開始している。当初の想定とはことなり、SGLT2阻害薬投与による握力の向上や寿命延長効果は有意ではなかった。このことはSGLT2阻害薬は より若年期からの介入の方が健康寿命により大きく寄与する可能性を示唆しており興味深い結果となっている。
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