研究課題
基盤研究(C)
切除可能進行胃癌においては術前化学療法による予後の改善が期待されているが、手術前に化学療法の効果を予測することは困難でバイオマーカーの開発は急務である。近年免疫療法だけでなく従来の抗がん剤によっても腫瘍組織における免疫活性が誘導されることが示唆されており、腫瘍内微小環境における免疫活性の変化は治療効果の予測因子となる可能性がある。本研究では、術前化学療法を行った進行胃癌症例の生検、手術検体で、免疫応答誘導性細胞死によって変動する特異的免疫細胞誘導因子の候補を抽出する。さらに、前向きに集積した進行胃癌症例の組織および血液検体を用いて抽出した因子のバイオマーカーとしての有用性を検証する。
本研究では、胃癌に対する術前化学療法(NAC)が免疫微小環境(TIME)に与える影響について明確な成果は得られなかったが、局所進行胃癌や食道胃接合部腺癌を有する脆弱な高齢患者に対してNACは実現可能であり、高いダウンステージング率とより良好な生存率が得られることが示された。また、組織学的腫瘍反応と好中球/リンパ球比(NLR)がNAC後の患者の予後因子となる可能性が示唆された。今後は、TIMEへの影響評価における研究デザインの見直しとともに、高齢者や脆弱な患者に対するNACの治療選択肢としての位置づけや、組織学的腫瘍反応とNLRを用いた治療決定・予後予測への活用が期待される。
本研究の成果は、高齢者や脆弱な患者を含む進行胃癌患者に対するNACの有効性と安全性を示し、治療選択肢の拡大に貢献する点で臨床的意義が大きい。また、組織学的腫瘍反応とNLRがNAC後の予後因子となる可能性を示したことは、治療効果の予測や個別化治療の実現に向けた重要な知見である。一方、NACがTIMEに与える影響については明確な結論が得られておらず、その機序の解明は今後の課題であるが、本研究で得られた知見は、がん免疫療法との併用を含めた新たな治療戦略の開発に向けた基盤となることが期待される。これらの成果は、高齢化社会におけるがん医療の質の向上と、がん患者のQOL向上に寄与すると考えられる。
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Anticancer Research
巻: 43 号: 9 ページ: 3755-3761
10.1007/s10147-023-02373-3