研究課題/領域番号 |
21K08801
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
足立 靖 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (10531189)
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研究分担者 |
佐々木 泰史 札幌医科大学, 医療人育成センター, 教授 (70322328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 食道扁平上皮癌 / p53 / 機能獲得変異 / 食道癌 / 扁平上皮癌 / トランスクリプトーム |
研究開始時の研究の概要 |
食道癌は悪性腫瘍の中でも悪性度が高く,進行癌で発見された時の治療法の効果が限られるため,克服しなければならない癌の一つです.本研究では,p53(代表的な癌抑制遺伝子の1つ)の変異を高頻度に認める食道扁平上皮癌に着目し,p53の変異によって起こるトランスクリプトーム (特定状況下の細胞における遺伝子mRNAの総体)の変動を効率的に分析し,その機能を解析しようとすることです.さらに発現異常,遺伝子変異の有無,悪性度および治療効果との関連性を解析することで,p53ネットワーク破綻のメカニズムを標的とした食道扁平上皮癌の治療法開発の基盤形成を目指します.
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研究実績の概要 |
がん抑制遺伝子であるp53は、ヒト悪性新生物において遺伝子変異が最も高頻度に検出されている。しかし、現時点で変異p53自体は治療標的とはなっておらず、臨床で使用可能な分子標的薬はない。一方、食道癌は早期より広範なリンパ転移をきたすため予後不良な消化器癌の一つであり、本邦においてその80%-90%は扁平上皮癌である。 本研究では、高頻度にp53変異を有する食道扁平上皮癌(esophageal squamous cell carcinoma: ESCC)に着目し、p53の機能獲得(Gain of function: GOF)変異によってもたらされるトランスクリプトームの変動を効率的に分析することから、その機能解析を行う。さらに、遺伝子変異の有無、発現異常、悪性度および治療効果との関連性を分析することで、ESCCに対するp53 network破綻の機序を標的とした治療法開発の基盤形成を目指している。 本研究の目的は、ESCCにおける変異型p53のGOF変異によってもたらされるトランスクリプトームの全貌を解明し、p53 networkのさらなる理解に繋げることである。さらに、変異型p53を分子標的とした治療法の開発につなげるための基礎的な研究を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
札幌医科大学附属病院とその関連病院から、食道扁平上皮癌(ESCC)の癌組織、非癌部組織、リンパ球の検体の供与を受け、DNA、RNAを抽出した。それらを用いて、p53の機能獲得(GOF)変異によって起こるトランスクリプトームの変動を分析している。さらに、機能解析へと展開している。 一方、食道におけるepidermization(表皮化)は白色扁平隆起として認めることがある。非常に稀なepidermizationを伴う高分化ESCCの一例を解析した。その癌は 免疫染色でp53がびまん性に陽性であり、次世代シーケンサーによる解析でTP53 missense mutation (c.733G>T, p.Gly245Cys)を検出した。さらに、種々のCopy number variations (CNV)を伴っていた。学会で報告すると共に現在、専門誌へ投稿し、掲載された。 悪性貧血を伴う自己免疫性胃炎の患者に胃悪性腫瘍が発生しやすいことが注目されている。我々は、悪性貧血を伴う自己免疫性胃炎の患者に、胃腺癌と ESCCを同時発生した症例を経験した。両癌ともp53の免疫染色は陰性であったが、次世代シーケンサーによる解析で両癌においてTP53変異を含む遺伝子変異を認めた。学会で報告すると共に現在、専門誌へ投稿している。 引き続き、p53ネットワークの解析を 行う予定としている。 GOF活性を評価するために、変異型p53発現プラスミドとアデノウイルスベクターを作成した。正常上皮細胞株およびESCC細胞株に変異型p53の強制発現を試みていたが、難しく律速段階となっていたが、やっと実験系が安定した。これから、この系を用いて解析を続ける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
食道扁平上皮癌(ESCC)では、変異型p53の機能獲得(GOF)変異のp63機能異常への寄与度は限定的と思われる。ESCCではp53変異はほぼ必発で(かつ60%以上 がmissense mutation)、複数ヶ所に認める症例も少ないことから、未知の変異型p53のGOF変異の作用が存在すると考えられる。そこで変異型p53と発現が関与する遺伝子の網羅的解析に留まらず、これまで検討されていないGOF変異の機能に焦点を当てたRNA-seq解析を行う計画である。また、変異型p53に対する分子標的治療薬の開発は遅れており、種々のmissense mutation TP53と結合して機能を回復させる小分子化合物(PRIMA-1等)が僅かに報告されている。本研究では、変異型p53のGOF変異にでもたらされるトランスクリプトームの解析を皮切りに、p53変異を有する悪性新生物に対する新たな治療戦略の開発を目指している。 DNA結合能、転写活性化能、および腫瘍原性解析から、GOF変異活性を検討した変異型p53発現プラスミド・アデノウイルスベクターを用いた系が安定してきたので、変異型p53のGOFにより変化するトランスクリプトームを抽出する計画である。変異型p53のGOF変異によって発現が低下するトランスクリプトはがん抑制的に機能することが推測されるので、癌細胞株・癌組織における遺伝子異常を分析する予定である。さらに、発現誘導系、および発現抑制系を構築して、機能解析を行う計画である。特に細胞増殖、浸潤能、運動能、アポトーシス誘導能への影響について詳細に評価する予定である。
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