研究課題/領域番号 |
21K08849
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55030:心臓血管外科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 正史 日本大学, 医学部, 教授 (80382927)
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研究分担者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 教授 (20382898)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 急性大動脈解離 / 免疫応答 / 偽腔形態 / 大動脈解離 / 偽腔閉塞型 / 大動脈リモデリング |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、血液サンプルを使用し、①炎症性サイトカイン濃度②凝固線溶系に関するmicroRNA濃度③単球表現型変化の推移などを経時的に計測する。この結果に基づき、偽腔血栓閉塞型大動脈解離に特異的な急性期炎症反応を明らかにするとともに、組織修復に関連する遺伝子・タンパク質を同定する。 1~2年目は、ヒト大動脈解離症例の血液サンプルを使用した研究を実施するが、手術で採取する組織検体も使用し、急性期の局所的な炎症反応も解析する。 2~3年目は、同定された大動脈組織修復に関連する遺伝子・タンパク質の発現を、他の大動脈疾患症例でも計測し、バイオマーカーとしての有用性を検証する。
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研究実績の概要 |
本研究では、保存的治療を行う急性大動脈解離症例を対象として、偽腔の形態により、偽腔開存群と偽腔血栓閉塞群の2群に分類する。末梢血液中のサイトカイン濃度やmicroRNA濃度の推移を、両群間で比較することで、偽腔血栓閉塞型大動脈解離の炎症反応を明らかにするとともに、大動脈リモデリングに至る経過を分子レベルで解析することを目的としている。 令和4年度は、今までに採取した41症例の急性大動脈解離患者の血液中の白血球数とD-dimer濃度を調査するとともに、サイトカインパネルを使用し末梢血における炎症性サイトカイン濃度を測定した。尚、本研究では、非解離性の胸部大動脈瘤症例を対象群(N=20)として、大動脈解離の偽腔形態により急性大動脈解離症例を血栓閉塞群(N=21)と偽腔開存群(N=23)の2群に分け、全身の炎症反応に違いがあるか比較検討した。血液データ上白血球数は両群とも上昇しており、D-dimer濃度は偽腔開存群で有意に高かった。17種の末梢血中サイトカイン濃度は両群間で有意差は無かったが、12種のサイトカインのうちIL-1Ra・IL-1b・IL-8・IP10は偽腔開存群で有意に高く、全身性の炎症反応の強さは偽腔血栓閉塞群と比較し、偽腔開存群で増強する可能性が示唆された。本研究結果は、令和3年11月に行われた米国心臓病学会(AHA2021)でオンライン発表し、令和4年度にヨーロッパ胸部外科学会に投稿し、採択に向けて査読、修正のやりとりを行っている。 これらの結果から偽腔血栓閉塞型急性大動脈解離では、偽腔開存群と比較し何らかの炎症反応抑制効果が働いていると考えられ、急性大動脈解離の病態解明とともに治療成績の改善につながる炎症反応惹起のメカニズムの解明に寄与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記した研究結果を踏まえ、日本大学と共同研究機関である自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、疾患発症後の偽腔形態による免疫応答の相違点とそのメカニズムを解明する研究を、急性期炎症に関与する好中球と単球/マクロファージ、炎症性サイトカインを中心に現在実施している。 発症直後から1ヶ月ほど経時的に採取した急性大動脈解離症例の血液検体から、まず血清成分を分離後凍結保存する。その後サイトカイン濃度を測定する。末梢血のサイトカイン濃度測定や解析は上記した研究結果の通り成功し、好中球活性とIL-1β・IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)の発現が偽腔閉塞型で抑制されることを見出した点から現在のところおおむね順調に研究は進んでいる。 急性大動脈解離は大動脈組織の急性炎症性疾患であり、発症後の好中球増多が予後に影響を及ぼすことが近年報告されている(Perfusion. 2017 May;32(4):336-337, Expert Rev Mol Diagn. 2015;15(7):965-70)。しかしながら、ヒト検体を用いて炎症反応の機序を細胞レベルで解析した研究は国内外を通じて報告例がなく、本研究の新規性は高い。今後は白血球増多群と非増多群などの組み合わせで、疾患発症後急性期の免疫応答の相違を、各細胞レベルで多角的に検証する方針である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、急性大動脈解離症例の血液検体を使用した全身性の免疫応答に関する研究を継続する予定である。具体的には急性大動脈解離(急性A型解離・急性B型解離)の診断で緊急入院する症例のうち、手術治療を行う症例を除外し、保存的治療を行う症例を対象として、①入院時②入院48時間後③入院7日目④入院14日目⑤入院30日目の5時相で、血液サンプルの採取を行い、得られた血漿成分は-80℃の冷蔵庫で保存する。 血漿サンプル中のサイトカイン濃度は、メルク社マルチプレックス法で計測する。血漿検体からキアゲン社のRNA抽出キットを使用してmicroRNAを抽出する。解析候補となるmicroRNAは過去の文献報告から決定し、炎症反応や凝固線溶系に関与するmicroRNAの発現をRT-PCR法で計測する。大動脈リモデリングの状況は、経時的に造影CT検査を行って評価する。上記血漿を使用する研究とは別に、①入院時②入院後5-7日目で末梢血から単球を精製し、単球におけるM1(CD80, CD86など)・M2(CD163,CD204など)表面抗原の発現をフローサイトメトリー法で計測する。上記の網羅的タンパク質・遺伝子発現解析で関連分子のクラスタリングを行い、大動脈解離発症後、偽腔の形態により全身性の炎症反応が異なる原因と機序の解明を目指す。 これら臨床検体を使用した分子細胞学的研究だけでなく、周術期の炎症反応の推移に関する後ろ向き観察研究も多施設共同で行い、急性大動脈解離における急性期免疫応答とその意義に関して、臨床データからも評価する方針である。
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