研究課題/領域番号 |
21K09205
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷脇 琢也 熊本大学, 病院, 助教 (90448530)
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研究分担者 |
宮本 健史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70383768)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 後縦靱帯骨化症 |
研究開始時の研究の概要 |
後縦靱帯骨化症(OPLL)は、は、脊椎椎体の後縁を連結する後縦靱帯が骨化することにより、脊柱管狭窄を来す疾患です。様々な要因が考えられていますが、本質的な疾患発症の原因はわかっていません。OPLL発症には遺伝的な要因が関与していることが知られていますが、本研究ではOPLLの疾患関連遺伝子として同定された遺伝子の機能解析を、新規のモデル動物を用いて行います。また、疾患発症や進行を抑制する可能性のある新規化合物についても、やはり新たな動物モデルを用いて効能評価を行います。これらの取り組みにより、OPLLの発症機構を解明するとともにヒトへの応用を図ることを目指します。
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研究実績の概要 |
難病指定を受けている後縦靱帯骨化症(OPLL)は、脊椎椎体の後縁を連結する後縦靱帯が骨化することにより、 脊柱管狭窄を来す疾患である。 様々な要因が考えられているが、異所性骨化の要因は依然不明のままである。申請者は、genome-wide association study (GWAS)により同定されたOPLL発症と相関する遺伝子座に存在する疾患関連候補遺伝子Hydroxyacid oxidase 1 (HAO1)に着目し、まずHAO1の発現がin vitroの骨芽細胞分化の過程で発現が有意に低下することを見出した。そこで、HAO1の発現低下が骨化誘導にポジティブに作用すると考え、HAO1遺伝子欠損マウスを作出し、靭帯に異所性骨化が生じるか、in vivoで検証を行うこととした。HAO1は肝臓にも発現していることが知られており、全身ノックアウトでは胎生致死となり、十分にアダルトでの靱帯骨化における役割を解析できないと考え、HAO1 floxマウスを新規に作出することとした。HAO1遺伝子のexon2をloxPシークエンスで挟むコンストラクを設計し、予定通りのマウスの作出に成功し、loxPシークエンスは生殖系列にも乗って継代されることを確認した。そこで、アダルトにおいて全身的にHAO1遺伝子を欠損させるためMx1 Creマウスと交配し、Hao1コンディショナルノックアウトマウス(HAO1 cKO: Mx1 Cre/Hao1 flox/floxマウス)を樹立し、その作出に成功した。HAO1 cKOでは残念ながらOPLLの発症は認めなかったが、 尿サンプルを用いたメタボローム解析によって、驚いたことにHAO1がtricarboxylic acid (TCA) cycleの制御に関わっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
靭帯に異所性骨化をきたすOPLLは、未だ原因も骨化の進行を抑制する治療法も存在しておらず、手術等で神経症状をきたす骨化巣を取り除いても、そもそもの骨形成要因の改善はないことから再狭窄等生じる可能性がある。OPLLは同胞発生など、遺伝的な要因によって発症することが知られていることから、GWASは疾患発症機構を解明する上で、最も有効な手法の1つと考えられる。疾患感受性遺伝子座として同定された20p12.3は独立した2つのGWASで確認されており、HAO1はその遺伝子座に存在する唯一のopen reading frameを有する遺伝子であることから、疾患関連遺伝子候補と考えられた。同様に、GWASでは他に5つの疾患感受性のある遺伝子座を同定しており、当該SNPが存在する遺伝子座に位置し、かつopen reading frameを有する7つの遺伝子(RSPO2, EIF3E, CCDC91, EIF3H, CDC5L, RSPH9, TMEM151B)を疾患関連遺伝子候補として同定した。そこで本研究では、in vitroにおける骨芽細胞の分化培養系において、これらの疾患関連遺伝子候補の発現解析を行い、骨芽細胞の分化進行に伴い、HAO1の発現が有意に低下することを見出した一方で、他の疾患関連遺伝子候補の発現には有意な変動を認めなかった。そこで、本研究ではHAO1に着目し、またHAO1の発現低下に伴い骨芽細胞の分化が促進することから、HAO1の発現低下が靭帯骨化に有利な環境を形成すると考え、HAO1の遺伝子欠損マウスを作成し、HAO1のin vivoにおける異所性骨化抑制能を解析することとした。HAO1欠損マウスは予定通り作製に成功したが、アダルトにおけるHAO1の有意な遺伝子抑制によっても靭帯を含む異所性骨化は観察されなかった。一方で、HAO1が酵素タンパク質であり、生体においてTCA cycleを制御することを新たに明らかにした。これらの成果については、英文誌に論文報告を完了した(Metabolites 2022)。以上の成果から、研究が概ね順調に進行している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、すでに作出済みのHAO1 cKOとOPLLのモデルマウスであるttwマウスと交配することでttw/HAO1 cKOマウスを作出し、OPLL形成へのHAO1の機能の解析をさらに進める。すでにttw/HAO1 cKOマウスの作出は完了している。また、HAO1と並んで解析を予定しているビタミンDシグナルであるが、先行した解析において、ttwマウスとビタミンD受容体(VDR, vitamin D receptor)欠損マウスとの交配で作成したttw/VDR KOマウスでは、ttwマウスにみられるOPLLを含む異所性骨化が完全に消失することを見出している。このことは、ビタミンDシグナルが異所性骨化誘導において重要な役割を担うことを示唆している。しかし、どの組織あるいは臓器においてビタミンDシグナルが異所性骨化誘導に寄与しているかは明らかではない。そこで本研究では、VDR floxマウスと組織特異的Creマウス、及びttwマウスを交配し、ttwマウスにおいて、組織特異的なVDR欠損マウスを作出する。すでにVDR floxマウスと小腸特異的なvillin Creマウスは入手済みで、ttwマウスとの交配を進めており、ttw/villin Cre/VDR-flox/floxマウスの作出も完了し、一部で解析を開始している。今後はさらに解析を進め、OPLLを含む異所性骨化に関する解析を進める予定である。
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