研究課題/領域番号 |
21K09242
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 東京医科歯科大学 (2022-2023) 日本医科大学 (2021) |
研究代表者 |
吉本 由紀 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (40735304)
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研究分担者 |
宿南 知佐 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (60303905)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 連結組織 / 異所性骨化 / 腱 / 老化 / 炎症 / 腱・靭帯 |
研究開始時の研究の概要 |
腱・靭帯は筋や骨が運動器の機能的なユニットとして協調的に働けるように連結している。加齢や糖尿病によって増加する腱・靭帯の組織障害は、難治性で長期の機能低下をもたらすが、腱・靭帯の加齢に関する分子メカニズムの詳細はわかっていない。本課題では、まず腱・靭帯の加齢過程における組織、細胞、遺伝子の経時的変化を解析する。加齢に関連して変動する遺伝子の機能解析を行い、腱・靭帯の老化を包括的に理解する。また、腱・靭帯と筋や骨と間の組織間相互作用が運動器の機能保全において果たす役割を調べることで、腱・靭帯が関わる運動器の機能低下のメカニズムや、その予防・治療法の開発に貢献できる新知見を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
これまでの解析の結果から腱の加齢性変化は直接的な骨化もしくは石灰化であることが高いことが明らかとなっていた。腱の加齢性変化に伴う石灰化の過程は、再生や機能不全における骨化と比較して異なるのかどうかを解析した。9か月齢の同一加齢マウスにおいて、無傷および損傷後のアキレス腱組織を、川本法を用いて非脱灰切片を作成して比較したところ、損傷後のアキレス腱内部において、軟骨組織や血管侵入および骨髄形成を伴った骨組織を観察し、アキレス腱内部で内軟骨性骨形成が進んでいることが示唆された。これらの所見は対照側の無傷のアキレス腱では認められなかった。次に炎症性マクロファージの局在解析から、他の臓器と同様に、アキレス腱においても老齢性変化と慢性炎症が親密に関係している可能性が示唆されていたため、今年度は同様に、損傷後のアキレス腱においても炎症性マクロファージの分布の確認を行った。損傷後5週間が経過したアキレス腱において、断裂したアキレス腱間は脆弱な瘢痕組織によって置換されているが、その中に多くのF4/80陽性のマクロファージが存在していた。つまり、アキレス腱の石灰化に関しては、加齢および修復過程の両方において炎症性マクロファージの寄与が強く示唆されたため、CCR2-CCL2依存的な局所へのマクロファージの遊走が抑制されるマウスを用いて、同様の解析を行ったところ、炎症性マクロファージの関与は否定できないが、CCR2-CCL2シグナルに依存して局所遊走するマクロファージは必ずしも必要ではないことが明らかになった。 また、他にも、遺伝子変異による疾患モデルマウスにおいて、アキレス腱内の石灰化が亢進することを新たに見出しており、加齢、損傷にこのような疾患モデルを加えて強靭結合組織の変性をより俯瞰的に理解する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、炎症性マクロファージの存在が確認できているために、昨年度より当初の予定から変更して、腱・靭帯の組織変性と炎症細胞の関連性に焦点を当てて解析を続けている状況である。今年度の解析結果から、CCR2-CCL2依存的なマクロファージの局所への遊走は必ずしも必要ではないことが判明した。腱・靱帯における炎症反応のプロセスは不明な点が多く残されており、その一端を明らかにすることができている。この結果を受けて新たな可能性も示唆されており、今後は、CCR2-CCL2非依存的な経路の探索とともに、どのようにして局所遊走したマクロファージが異所性骨化もしくは石灰化に関わるのかを詳しく調べることも新たな課題として提示できた。 課題となっている加齢性変化に関わるメカニズムの解析に関しては、現在RNAシークエンスの結果から、加齢変化によって変動するシグナル分子を抽出しており、これらの因子の機能を解析するために細胞を調整中である。腱細胞の使用を考えているために、若齢および加齢マウスの尾部の腱組織から初代腱細胞を分離し、解析に必要なストックを作成している。また、一つの遺伝子改変モデルマウスにおいて、アキレスの老齢変化を増強した表現形を確認できている。このマウスの筋骨格形を解析することで、腱・靱帯の老齢性変化が金骨格形全体に与える影響が理解できる可能性があり、研究期間を1年延長してこのマウスのアキレス腱のRNAシークエンスの解析と合わせて現在進めている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
新たな展開が見られたことと、研究期間中に研究代表者の所属の移動等があり、研究機関を延長したため、2024年度が最終年度となる。これまでに引き続き、腱・靱帯の加齢性変化や損傷による変化と炎症の関連性を明らかにする予定である。CCR2欠失マウスにおいてもなお老化および損傷後のアキレス腱には炎症性マクロファージの存在が多く、これらの細胞がどのように集まるのかを検証する必要がある。局所における細胞増殖の確認やCCR2非依存的パスウェイの検索などを考えている。 さらに腱細胞を用いた培養による解析を予定しているが、炎症細胞との共培養や炎症性サイトカインの添加などによって、腱細胞の動態に炎症が与える影響を詳しく調べることが、組織変性の防止策を考える上では重要となるために、これらの実験も行う予定である。 最終的に、腱・靱帯の老化をはじめとした原因による組織変性が筋骨格系全体に及ぼす影響を解析することを考えている。今回加齢と類似した組織変性を示す疾患モデルとして新たに遺伝子改変マウスを得ている。このモデルも加えて、骨格や筋組織の詳細な解析を進めることを計画している。最終的に一連の解析を通して、運動器の機能維持に役立つような知見が得られることを目指す。
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