研究課題/領域番号 |
21K09312
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
川原 範夫 金沢医科大学, 医学部, 教授 (70214674)
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研究分担者 |
石垣 靖人 金沢医科大学, 総合医学研究所, 教授 (20232275)
市堰 徹 金沢医科大学, 医学部, 教授 (30307631)
舘 慶之 金沢医科大学, 医学部, 助教 (50634549)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 変形性膝関節症 / 再生医療 / 細胞治療 / Lipogems / MFAT / 脂肪由来幹細胞 / 脂肪組織由来幹細胞 / 間葉系幹細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
2019年度より、我々は変形生膝関節症(OA)患者にLipogems(脂肪組織破砕キット)を用いた脂肪組織の投与に関する安全性試験を実施し、安全性や有効性を確認した。しかし、作用機序については不明な点が多い。そこで、患者に投与されたLipogems処理脂肪組織の残余検体を活用して、破砕された脂肪組織の分子生物学的に解析を実施し、治療成績に貢献する因子を同定する。本検討から、脂肪組織由来幹細胞によるOAの治療機序を明らかにし、新規治療方法について提案していくことを目指す。
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研究実績の概要 |
近年、脂肪組織の破砕物や、脂肪組織中に含まれる間葉系幹細胞(脂肪由来幹細胞)が変形性膝関節症の治療に用いられつつある。研究代表者の所属する医療チームは、我が国で初めて変形性膝関節症患者に対し、Lipogemsと呼ばれる脂肪組織破砕キットで処理した脂肪組織を投与する臨床試験を実施し、その安全性や有効性を確認した。海外でも、良好な治療成績を収めていることが多数報告されており、脂肪組織破砕物や脂肪由来幹細胞の投与が変形性膝関節症に対して一定の効果があることが示されている。作用機序としては、組織中に含まれる脂肪由来幹細胞から分泌されるサイトカインやエクソソームによる抗炎症作用が知られている。2019年度より、研究代表者らは我が国で初めてOA患者にLipogemsを用いた脂肪組織の投与に関する安全性試験を実施しており、その安全性や有効性を確認した。しかし、海外で良好な治療成績が報告されているのに対して、その作用機序については現時点でも不明な点が多い。そこで、患者に投与されたLipogems処理脂肪組織の残余検体を活用して、破砕された脂肪組織からの分泌因子の網羅的解析と脂肪組織由来幹細胞のトランスクリプトーム解析を実施する。得られた定量データについて臨床での治療成績との相関を解析し、分子レベルで治療成績に貢献する因子を同定する。以上より、間葉系幹細胞によるOAの治療機序を明らかにし、治療成績の向上や脂肪組織処理法の改善を行って新規治療方法について提案していくことを目指す。2022年度末までに8人15膝における治療を実施してきた。比較的重症な患者への投与となったが経過は順調であり、今後はより症状の軽い患者についても投与を行っていきたいと考えている。これまでの安全性試験を含めた治療成績は概ね良好であり、目立った副反応などは認められていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書に記載された実験計画を実施し、症例数を順調に積み増しし、必要な実験系の整備を行ってきた。また、今後の研究課題として脂肪組織の投与形態の与える影響を検討していくために、初年度からLipogems処理された脂肪由来の幹細胞についてスフェロイドやシート培養された際の特性の変化について検討を行い論文成果として発表してきた。この中で、Lipogemsにより得られた脂肪組織のマイクロフラグメントから培養条件下で増殖する幹細胞(表面抗原マーカーがCD13、29、44、49d、73、90、105陽性でCD56陰性、かつ培養条件下で脂肪細胞への分化誘導が可能)の分離が実験的に可能であったことから、その治療効果はやはり生きた脂肪組織由来幹細胞によるものと考えられる。分離された細胞の性質と遺伝子発現解析結果を組み合わせて治療に寄与する因子を同定するには、更なる検体数の積み増しが必要である。一方で、培養液中に置いたマイクロフラグメントからは多数のタンパク質成分や化学物質が遊離することも確認されており、これらの多様な可溶性因子が部分的あるいは幹細胞と相乗的に治療効果を発揮している可能性も検討していきたい。脂肪由来幹細胞においては免疫抑制性サイトカイン類と、エキソソームが分泌されているため、これらについてもLipogemsで破砕された脂肪組織由来幹細胞から分泌されることを明らかにした。これらの放出因子が治療後早期にしばしば観察される痛みの軽減に寄与している可能性が考えられているため、臨床での治療効果との相関について、より詳細な検討を進めていく予定である。また、投与場所である関節腔内を満たしている滑液と治療用の細胞や組織は相互作用があると考えられるために、滑液バンクを構築し研究に用いていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も順調に症例の追加を実施するとともに、前例の経過観察を継続していく予定である。患者の選択基準としては、従来と変わらず、1.変形性膝関節症と診断された30歳~60歳の患者とする。2.放射線 Kellgren LawrenceグレードII-IVの患者に実施する。3.インデックス膝の症状発症が6ヶ月以上経過した患者とする。4. 研究指導、研究内容を理解できうる能力があり、書面による同意が得られる患者とする。5.保存的治療による改善が見込めない患者。6.脂肪吸引が可能な患者を選択とする。麻酔方法については全身麻酔を実施してきたが、負担軽減を目指して局所麻酔下における投与も検討すべきと考えている。なお、Kellgren LawrenceグレードIVの患者については保険適用となる関節置換術の対象となるためだけでなく、治療効果が低いことも想定されるために、より低いグレードでの患者についても検討を進めていきたい。実施日以降、診察とVAS、KOOSスコアを登録時、投与後1週間、1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、1年に実施していく。 MRI検査を投与後6ヵ月、1年に行い、関節鏡検査は投与後1年に実施する。また、診察時に関節液の採取が可能な場合、膝関節を穿刺して関節液を採取し、関節液の性状(炎症性サイトカインなど)を調べる。また、評価検体となる脂肪由来幹細胞の採取にも全例成功している。治療の余剰検体をバイオ未来工房社の脂肪幹細胞分離シートに載せて2週間培養することで脂肪組織由来幹細胞を分離し、FACS等にて性状を確認してきた。分離させた幹細胞は治療効果の要と考えられるので、この培養細胞にてマイクロアレイ解析などを実施して全遺伝子の発現プロファイルを得ていく予定である。
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