研究課題/領域番号 |
21K09323
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
由留部 崇 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (10514648)
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研究分担者 |
角谷 賢一朗 神戸大学, 医学研究科, 特命准教授 (10533739)
張 鍾穎 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (00824195)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 椎間板変性 / mTOR / オートファジー / 脊椎 / 整形外科 |
研究開始時の研究の概要 |
腰痛の主たる要因である脊椎椎間板変性には細胞内クリアランス機構オートファジーとその制御を行うmTORシグナル細胞内伝達経路が関与するとの仮説を立てた。本研究ではmTOR複合体1(mTORC1)への遺伝子干渉(mTORC1構成タンパク質RaptorへのRNA干渉)や類似の効果を示す薬剤(mTORC1阻害剤テムシロリムス)の投与が椎間板変性の有効な治療法となる可能性を明らかにすべく、ラット椎間板変性モデルを用いた動物実験を計画した。本法は細胞自身の清浄力・治癒力を高めることで椎間板の恒常性を維持して変性の進行を抑制する、より生理的な治療法となる可能性がある。
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研究実績の概要 |
我々のヒト椎間板細胞実験からmTORは細胞に必須のシグナル伝達経路である一方、mTOR複合体1(mTORC1)の選択的な抑制が椎間板変性抑止効果を示す可能性が示唆された。今回、ラット椎間板細胞でmTORC1の構成体であるRaptorへのRNA干渉(RNAi)が50.1%-60.3%のタンパク発現抑制を示し、オートファジーの亢進と細胞死・細胞老化・細胞外基質分解の抑制を認めた。mTOR/mTORC1・C2 RNAiとRictor/mTORC2 RNAiも検討したが、Raptor/mTORC1 RNAiで最も顕著な変性抑止効果が得られた。 そこでより高精度に特定遺伝子の完全な排除が可能となるCRISPR-Cas9システムの導入を計画し、ヒト椎間板細胞で安定して80%以上のRAPTORタンパクの発現抑制が得られた。CRISPR-Cas9ノックアウトではRNAiノックダウンと比較し、明らかなオートファジーの亢進と細胞死・細胞老化・細胞外基質分解の抑制を認め、やはりRAPTORの選択的抑制で最も顕著であった。RAPTOR/mTORC1 CRISPR-Cas9が最も効率的に椎間板変性抑制に寄与すると考え、実験中である。 並行してラット尾椎椎間板組織にRaptor/mTORC1 RNAiを導入し、Raptorの選択的な発現抑制と細胞死・細胞老化の抑制を確認した。さらにラット尾椎椎間板変性モデルを作成、RNAi導入後に変性を惹起し、変性過程の変化を観察した。Raptor/mTORC1 RNAi群で画像・組織学的変性度が低く、生体内でも椎間板変性抑止効果を有する可能性が示唆された。mTOR/mTORC1・C2 RNAi、Rictor/mTORC2 RNAi、類似の薬効を示すtemsirolimusの検討も行い、RNAi、CRISPR-Cas9、薬剤を用いた椎間板細胞・動物実験を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では簡便で成績が安定しているsiRNAを用いたRNA干渉(RNAi)によるmTORシグナル経路のノックダウンを計画したが、より高精度に特定遺伝子の完全な排除が可能となるCRISPR-Cas9システムによる遺伝子のノックアウトを行う方針を選択した。ヒト脊椎手術で採取した椎間板細胞に対するCRISPR-Cas9を用いた遺伝子改変技術の導入に際し、条件設定に苦慮したが、最終的には安定して80%以上のノックアウト(RNAiでは50.1%-60.3%のノックダウン)が獲得できた。mTORシグナル経路の検討ではRAPTOR/mTOR複合体1の選択的抑制が最も有効な椎間板変性抑止効果を有することが示された。今後、ヒト・ラット椎間板細胞実験を進めつつ、RNAi、CRISPR-Cas9、薬剤を用いたラット椎間板変性動物モデルの実験を精力的に実施していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究室ではヒト・ラット脊椎椎間板細胞のmTORシグナル経路に対するsiRNAを用いたRNA干渉(RNAi)による遺伝子ノックダウンの手法とテムシロリムスなどのmTOR複合体1(mTORC1)阻害剤を用いた制御を既に確立しており、今回、新たにCRISPR-Cas9システムを用いた高精度の遺伝子ノックアウトの手法が確立できつつある。現在、RNAi、CRISPR-Cas9、薬剤をそれぞれラット椎間板変性モデルへ導入することでRaptor/mTORC1を選択的に抑制し、各介入手法の椎間板変性抑止効果の有効性・類似性・相違点についての比較検討実験を実施中である。本研究からmTORシグナル経路の詳細な機能解析が達成できれば、腰痛や神経障害を高頻度に生じることで莫大な社会経済的損失を生じる脊椎椎間板疾患への細胞生物学的治療の開発が一層進むものと期待される。
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