研究課題
基盤研究(C)
研究計画の概要は、以下の如くである。1. 骨肉腫肺転移において、腫瘍細胞の免疫編集による自然免疫回避が生じていることを、臨 床的に証明すること。2. 骨肉腫細胞株を用いて、免疫編集メカニズムを解析し、その阻害法を開発すること。3. 前臨床レベルで、骨肉腫肺転移に対する、免疫編集阻害と自然免疫活性化を併用した、 新規治療法を確立すること。
近年の腫瘍免疫療法の進歩により、進行がんの治療成績は改善しつつある。特に、手術、薬物、放射線治療に加え、腫瘍免疫療法が第4の治療法として脚光を浴びている。肺がんや胃がんなど、免疫療法が著効するがん種もあるが、免疫療法の悪性骨軟部腫瘍に対する有効性は、一般的に乏しいことが、いくつかの臨床試験で示されている。このことから、悪性骨軟部腫瘍においては、何らかの免疫回避機構、すなわち腫瘍細胞が、自身の免疫系を改変(免疫編集)し、生体の免疫システムから逸脱させ転移を成立させている可能性がある。悪性骨軟部腫瘍の予後を規定する最大の因子は肺転移である。本年度は,悪性軟部腫瘍が原発巣から肺転移を来す際に、腫瘍の免疫プロファイルがどのように変化するかを、特に自然免疫系と獲得免疫系の療法明らかにした。このことは、悪性軟部腫瘍の肺転移に対する腫瘍免疫療法の確立、ひいては予後の改善に重要であると考えられた。前年度の結果から,平滑筋肉腫(LMS)の肺転移では原発と比較してCD8+ T細胞の浸潤が著明に低下していることを確認している。そこで本年度は. LMSの肺転移でCD8+ T細胞の浸潤が減少するメカニズムを解明するため,原発と肺転移の組織標本を用いて遺伝子発現解析を行った.その結果、肺転移で発現が上昇しているDEGはC4BPA,CEACAM6,EPCAM,LAMP3,DMBT1,MUC1の6つであった.発現量と浸潤CD8+ T細胞数との相関解析の結果,最も相関が強いDEGはEPCAMであった(p=0.050). この結果よりLMSの肺転移では,原発と比較してEPCAMの発現が有意に上昇している事が明らかとなった。LMSの肺転移で発現上昇したEpCAMは免疫逃避に関与していると推定される。そのため、EPCAMの発現や機能を阻害する事でCD8+ T細胞の腫瘍浸潤が回復し,予後を改善する可能性がある.
2: おおむね順調に進展している
論文、学会発表を行うとともに、既に投稿可能な程度まで主研究が進捗しているため。
2023年度は,ヒトLMS細胞株を用いて,EPCAMがCD8+ T細胞の遊走に及ぼす影響を検討する。方法としては、腫瘍細胞のEPCAMの機能をTACE阻害薬とγ-セレクターゼ阻害薬などの薬剤で阻害する。また、EPCAMに対するsiRNAにより、腫瘍細胞のEPCAMの発現をノックダウンする。それらの操作を行った腫瘍細胞から得られた条件付き調整培地(CM)を用いて、 CD8+ T細胞の遊走をtranswell assayで評価する。EPCAMの機能や発現を阻害することで、CD8+ T細胞の遊走が亢進する可能性がある。さらに、代表的な悪性骨腫瘍である、骨肉腫に関しても研究を行う。CH3系統マウスに発生する骨肉腫細胞であるLM8を用いて分子細胞生物学的な解析を行う。LM8をCH3マウス脛骨に移植、腫瘍形成後に切除すると約2-3週で肺転移がほぼ100%出現する(肺転移モデル)。このモデルを用いた我々の先行研究において、自然免疫の賦活化により肺転移が抑制されるが、その際、CD8+ T細胞が主要な役割を果たしていることを見出している。そこで、このCD8+ T細胞の殺腫瘍効果を上昇させる薬剤のスクリーニングを行う。1例としては、免疫アジュバント製剤などが想定される。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件)
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