研究課題/領域番号 |
21K09338
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 医療法人徳洲会野崎徳洲会病院(附属研究所) |
研究代表者 |
笹川 覚 医療法人徳洲会野崎徳洲会病院(附属研究所), 研究所, 部長 (80345115)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 滑膜肉腫 / スフェロイド / Twist1 / HDACの阻害剤 / 薬剤耐性 / 転位 / ABCB7 / フェロトーシス / 転移 / 骨軟部腫瘍 |
研究開始時の研究の概要 |
希少がんに分類される滑膜肉腫は、高頻度に肺転移を生じるため予後不良となるケースが少なくない。そのため、肺転移抑制、肺転移後にも有効な治療法の確立は医療者、患者双方にとっての悲願である。申請者はこれまでに、スフェロイド培養系でTwist1が薬剤耐性、アポトーシス耐性を調節することを明らかにしている。本計画はこの結果を発展させ、これらの現象に関わるTwist1が調節する遺伝子群の同定とその分子メカニズムを明らかにし、そこから転移抑制、肺転移後の治療で有効な分子標的を探索し、動物実験を経て臨床応用の礎となるデータを集積することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究ではHDAC阻害剤romidepsinを中心に、滑膜肉腫(SS)細胞に対する薬効、薬剤抵抗性、抵抗性の解除について研究を進めている。SS細胞に対してromidepsinを投与したところ、高感受性のものと低感受性のものに分類された。高感受性細胞ではromidepsinにより直接的に細胞死が誘導された一方、低感受性細胞では直接的な細胞死は誘導されないものの細胞周期阻害因子が誘導された。また、NK細胞によって認識される細胞表面抗原分子であるMICA/Bが低感受性細胞では強く誘導されていた。これらの多様なHDAC応答性はいずれの細胞においても同様に誘導されるものの、高感受性細胞ではMICA/Bの発現が上昇する前に細胞死が誘導されるために、一見して誘導が弱いものと推測される。本研究では低感受性細胞(Aska、Yamato)についてスフェロイド培養し、romidepsinを投与した。その結果、YamatoスフェロイドではromidepsinによるMICA/Bの誘導効果がほぼ見られず、HDAC阻害の指標としてみたヒストンH3のアセチル化の蓄積も観察されなかったことから、romidepsinが薬剤耐性に遭っていると推測された。薬剤耐性の要因としてTwist1に着目し、shRNAによりTwist1をノックダウンした細胞でスフェロイドを作出し、romidepsinを投与した。その結果、薬剤抵抗性は解除され、YamatoスフェロイドにおいてもromidepsinによりMICA/Bの発現誘導が認められた。筆者はSN38がTwist1の発現を抑制することをSS細胞で確認している。Yamatoスフェロイドに対してromidepsinをSN38と併用投与した結果、MICA/Bの発現誘導が回復した。現在、ここまでのデータで論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に研究を進めている。現在、論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
フェロトーシスは近年になって見出された新規の細胞死の一形態であり、鉄イオン依存性の膜脂質の過酸化状態が引き起こすプログラム細胞死である。これまでの研究過程で、スフェロイド形態ではフェロトーシス耐性が強くなることを見出した。フェロトーシス誘導剤であるRSL3やerastin2を同じ細胞で通常培養(2次元(2D)培養)とスフェロイド培養(3次元(3D)培養)で応答性を比較した結果、いずれの細胞でも細胞死を誘導するのに1オーダー高い濃度が必要であった。フェロトーシスに関わる因子の発現を個別に調査した結果、GPx4の発現がスフェロイド形態で増強していることが明らかとなった。また、タンパク質以外の抗酸化分子の存在量も大幅に上昇していた。この現象は滑膜肉腫だけにとどまらず、大腸がん、膵がん、乳がん、脳腫瘍の細胞株から作出したスフェロイドでも観察されたことから、がん全体に潜むメカニズムであることが強く示唆される。また、滑膜肉腫細胞株の全てで鉄イオントランスポーターであるABCB7の発現が亢進していることを明らかにしている。ABCB7は造血系発生で必須の因子であることが明らかになりつつ有るが、がんや肉腫における機能は不明である。滑膜肉腫細胞でABCB7をノックダウンすると急速に細胞増殖能が低下することからABCB7に依存していることが示唆される。フェロトーシス耐性への寄与も強く期待される。 総合的に考えて、細胞集団として取り扱うことで発揮される細胞死への抵抗メカニズムが駆動され、薬剤抵抗性の一因になっていると推察された。今後の研究方策としてこの仮説を実証し、フェロトーシス耐性を解除する薬剤と既存の抗がん剤との併用でより高い治療効果、薬剤耐性を持ってしまった腫瘍に対する感受性の再獲得を促進する治療へとつながる道筋をつけたいと考えている。
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