研究課題/領域番号 |
21K09414
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56030:泌尿器科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田邉 起 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (80880096)
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研究分担者 |
村上 正晃 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (00250514)
篠原 信雄 北海道大学, 医学研究院, 教授 (90250422)
堀田 記世彦 北海道大学, 大学病院, 講師 (90443936)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 腎移植 / 薬剤腎毒性 / カルシニューリン阻害薬 / ステロイド / バイオマーカー |
研究開始時の研究の概要 |
腎移植の長期生着には免疫抑制剤であるカルシニューリン阻害薬の慢性腎毒性による間質線維化と尿細管委縮が障害となる。また腎毒性の根拠となる「細動脈中膜平滑筋の硝子様変化」以外に有用な腎毒性を示すマーカーがないのも問題である。当院の腎移植後患者の定期腎生検を使った先行研究でステロイドの抗炎症作用が腎毒性を軽減するという仮説が立つ。本研究では①腎移植後の長期生着例をステロイド内服有無に分けて腎毒性を再評価し、②炎症産生機構であるInflammation Amplifierの関わりを臨床検体およびin vitroで確認し、③ステロイドによる腎毒性の予防効果の解明と腎毒性の新規マーカーの開発を予定する。
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研究実績の概要 |
腎移植後に長期間使用するカルシニューリン阻害薬(CNI)による慢性腎毒性の特徴は腎細動脈の中膜平滑筋の硝子様変化による血管毒性であり、これにより腎の間質線維化や尿細管委縮が始まり移植腎機能低下を起こすと考えられていた。この動脈硝子化に代表される血管内皮細胞変化以外に、尿細管や間質の上皮細胞系に注目したマーカーが必要である。 近年CNIによる炎症性サイトカインの産生の誘導が指摘されており、慢性炎症のメカニズムのひとつであるNF-κB経路とSTAT3経路の活性化が相乗的に起こる炎症増幅回路の活性化が関与している可能性がある。一方で、免疫抑制剤の一つであるステロイドには抗炎症作用があり、CNIによる炎症性サイトカイン産生誘導を抑制している可能性がある。よって本研究の目的は尿細管間質においてCNI腎毒性をステロイドが軽減しているかを検索し、さらに新規バイオマーカーの開発に取り組むことである。 ステロイドがCNIによる腎毒性に良い影響を及ぼすかを臨床データおよび経時的な移植腎組織より解析した。当院の腎移植患者でステロイドが継続されている群と、ステロイドを早期に中止した群で、移植腎サンプルの見直しを行った。Periodic acid-Schiff stain(PAS)染色を用いて、これらの細動脈の硝子化を国際基準であるBanff分類のAlternate quantitative scoring for Hyaline Arteriolar Thickening(aahスコア)で3段階に分けて評価した。現段階でステロイド中止群においてCNI毒性が有意に高い結果がでている。この結果はステロイドが慢性腎毒性を抑制する可能性を示す重要な知見である。 今年度は臨床データからはどのような腎グラフトに毒性が出やすいかを検討した結果、50歳以上のドナーから提供された腎臓が10年以上経過すると毒性が出やすいことつきとめ論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、本研究の補助データとしてCNI毒性をドナー別に解析して毒性の出現頻度を解析し、高齢グラフトに毒性が多く出ることを論文として発表した。しかし炎症の根源である多量の炎症性因子の産生機構を炎症増幅回路(Inflammation Amplifier)の分子機構の転写因子STAT3とNF-κBの同時活性の解析が遅れている。 今後はこれらの炎症回路制御に関連する分子、STAT3やNF-κBなどで染色を行い、カルシニューリン阻害剤による腎毒性がステロイドで制御できているかを確認する予定で、典型例ではステロイドを中止したCNI毒性例において、STAT3やNF-κBの発現が増えている傾向がつかめている。 また腎生検サンプルを用いたRNA発現量の解析では、ステロイドを中止したCNI毒性例においてIL-6、TNFα、NF-κBの発現量が増えている傾向を確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はin vitroで集めた結果に追加実験を行い、臨床症例の経過をまとめて論文化する予定である。近位尿細管細胞において、タクロリムスの投与によりIL-6の発現量が増加するが、ステロイドにより発現量が抑制されること、そしてIL-6+TNFα刺激によるIL-6 Amplifierの活性化によりIL-6の発現量が増加することを確認する予定である。 最終目的は今回まとめた結果を、もう一度臨床検体にフィードバックすることであり、STAT3、NF-κB、および上記3のRNAシーケンスの検討で発見され得るCNI腎毒性のバイオマーカーの染色を行い、病理学的な定量評価を予定する。現存の細動脈の硝子様変化とは全く違う視点の尿細管や間質の上皮細胞系での評価が可能と考える。
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