研究課題
基盤研究(C)
眼炎症性疾患の背景は多様で、重症度や治療反応性の違いにより視力予後が大きく異なるがその病態の違いは殆ど解明されていない。一方、近年の分子学的診断や手術の進歩により眼炎症性疾患の診断・治療目的で眼内液の採取を行うようになった。近年、微量検体の解析が可能なシングルセル解析や網羅的遺伝子・タンパク発現解析手法を用いたヒト炎症局所免疫の理解の重要性が高まっている。本研究はこれらの解析手法により、眼炎症性疾患の炎症局所に特異的な免疫プロファイルや、炎症局所への炎症細胞集積に関わる因子を解析する。また、重症度・治療抵抗性に関わる因子を明らかにし、ヒト免疫の理解、個別化医療の発展を押し進めるものである。
最終年度はCyTOFで取得した急性網膜壊死の眼内液と末梢血の炎症細胞プロファイルの比較解析を行った。主要な単核球サブセット頻度を眼内液と末梢血で比較すると、T細胞、NK細胞、単球では有意な違いがなく、B細胞頻度は眼内で有意に低く、樹状細胞頻度は有意に高かった。UMAP、FlowSOM解析にて眼内に有意に集積している細胞群を解析すると、PD-1陽性制御性T細胞や活性化CD8+T細胞、活性化NK細胞、単球などの頻度が有意に高く、これらが特に眼内に集積していることがわかった。これらのサブセットの多くは複数の活性化マーカーを発現するとともに疲弊化マーカーの共発現もみられた。眼内炎症細胞の遺伝子発現解析ではNK細胞の細胞障害性顆粒の発現レベルが高かった。Vogt-小柳-原田病の脳脊髄液と末梢血の炎症細胞のCyTOF網羅的比較解析も行った。脳脊髄液中単核球は全体に活性化されており、主要な単核球サブセット頻度を末梢血と比較すると単球、B細胞、NK細胞頻度が低く、分化CD4陽性T細胞、未分化CD8陽性T細胞頻度が高かった。制御性T細胞頻度や疲弊化マーカー陽性細胞や末梢血にはみられない未既定の細胞集団もみられた。感染性ぶどう膜炎の代表である急性網膜壊死と自己免疫性非感染性ぶどう膜炎の代表であるVogt-小柳-原田病の局所炎症に共通する所見としてB細胞頻度が低いことやいずれも制御性T細胞頻度が高いこと、疲弊化マーカーの発現などが明らかになった。また、細胞種や疾患によって高い発現を示す活性化マーカーやケモカイン受容体の違いがみられた。眼疾患局所炎症病態の理解に有用であると考えられる。
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