研究課題/領域番号 |
21K09898
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57030:保存治療系歯学関連
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
荻野 玲奈 (田中玲奈) 昭和大学, 歯学部, 講師 (80585779)
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研究分担者 |
柴田 陽 昭和大学, 歯学部, 教授 (30327936)
宮崎 隆 昭和大学, 歯学部, 教授 (40175617)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | エナメル質 / ハイドロキシアパタイト / ナノ結晶 / 再石灰化 / 走査型透過電子顕微鏡 / 結晶遷移 / ラマン分光法 |
研究開始時の研究の概要 |
過酸化水素へのハロゲンランプ照射によりエナメル質の六方晶構造に部分的な欠陥を作る.アパタイト結晶は低温アニーリングによって本来の化学量論的構造である単斜晶に遷移するが,通常は炭酸イオンの自然導入により六方晶へ再遷移してしまう.本研究では,再遷移を防ぐために低温アニーリングと同時にイオン溶液を適用し,単斜晶状態が維持できるイオン雰囲気をつくる.単斜晶アパタイトを含む成熟エナメル質は,高い石灰化能力を発揮し,エナメル質初期う蝕を再生できる.
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研究実績の概要 |
申請者らは,これまでの研究でマイクロCT撮影によるミネラル密度解析を用いて過酸化水素で漂白した天然のエナメル質は,結晶レベルで部分的な欠陥を生じると再石灰化が活発になることを示してきた.しかしナノアパタイト結晶の微細構造や結晶欠陥の詳細については未知であった.そこで,エナメル質未処理サンプルと低温アニーリングで合成されたエナメル質サンプルを作製し,走査型透過電子顕微鏡を用いてアパタイトナノ結晶の構造を3D走査電子顕微鏡で観察した結果,未処理のエナメル質ナノアパタイト結晶と比較して低温アニーリングで合成されたエナメル質ナノアパタイト結晶には表層から深層に向かって欠陥が多数存在することが明らかになった. また,実際に低温アニーリングでイオン抽出液からアパタイトナノ結晶に取り込まれた元素の挙動について検証した.未処理およびイオン抽出液浸漬のみ,または漂白処理後イオン抽出液に浸漬した天然歯サンプルにそれぞれ,レーザ光を照射しサンプルを蒸発・微粒子化しながらマッピングするレーザーアブレーションICP質量分析を用いて検出・定量した.さらにイオン抽出液に含まれるイオンのうちアパタイトナノ結晶に取り込まれた元素の分布をイメージングした.この二つの分析結果から,低温アニーリングを行わずイオン抽出液に浸漬したのみのサンプルでもリンイオンの濃度が上昇し,低温アニーリングしたサンプルでは象牙質部分でストロンチウムイオンの濃度が上昇することが明らかになった. 今後ナノスケールで結晶構造解析を行うための予備実験として,集束イオンビーム装置によるマイクロサンプリングでエナメル質を加工することを試みたところ,単斜晶アパタイトナノ結晶の走査型透過電子顕微鏡像を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにマイクロCT解析の結果で示された漂白処理で生じるミネラル密度の低下が,エナメル質アパタイトナノ結晶の欠陥に起因するという仮説を裏付けるように,漂白処理ではエナメル質表層からエナメル質深部にかけて,アパタイトナノ結晶間に多数の空隙が生じることが明らかになった.また,集束イオンビーム装置による天然歯のマイクロサンプリングが成功し,これまで未知であった天然歯のエナメル質表層・深層,エナメル象牙境および象牙質のアパタイトナノ結晶の構造も観察することができた.このマイクロサンプリング法により,今後,低温アニーリングしたアパタイトナノ結晶のさらなる観察および結晶構造解析が可能になることが明らかになったため.
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今後の研究の推進方策 |
低温アニーリングした天然歯エナメル質サンプルを作製し,走査型透過電子顕微鏡を用いて 合成された単斜晶アパタイトの超微細構造を3Dで観察しながら元素分析を行う. また,低温アニーリングした天然歯サンプルにレーザーアブレーションICP質量分析を用いて,エナメル質内の表層から深層まで数か所と象牙質内でのCa/Pの測定を行い未処理天然歯サンプルとの比較を行う. 予備実験で行った集束イオンビーム装置によるマイクロサンプリング法で単斜晶アパタイトのナノ結晶構造を走査型透過電子顕微鏡によって観察し,エナメル質の局所構造を原子スケールで分析してイオン抽出液からエナメル質の結晶欠陥部に補完される原子の挙動を捉える.さらに再石灰化処理したアパタイトナノ結晶の結晶解析を行う.走査型透過電子顕微鏡像によりイオン抽出液に含まれるイオンの半径に基づいたシミュレーションを行い,結晶遷移に効果的なイオンを同定することで,単斜晶アパタイトナノ結晶が生成される過程における結晶遷移のメカニズムを解明し,生体内における結晶へのイオン導入の可能性を探る.最後に,低温アニーリングおよびイオン抽出液で処理した天然歯サンプルを人工唾液に浸漬し,マイクロCT解析を用いて非破壊でエナメル質の再石灰化傾向を定量的に分析する.
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