研究課題
基盤研究(C)
まず、初年度(令和3年度)に、分光イメージング装置を用いたグラデーション評価の有用性を検討する。ここでは、ジルコニア試料を対象として従来の接触式の分光測色計と非接触式の分光イメージング装置の比較を行う。続いて令和4年度には、非接触式の分光イメージング装置を用いて、被験者の口腔内で天然歯(中切歯)を測色しグラデーションを評価する。最終の令和5年度には、平成4年度と同様に被験者を用いて、分光イメージング装置により、歯種別、年齢別の天然歯グラデーション評価を行う。
天然歯の歯冠全体を計測し、歯頸部から切縁部にかけての段階的な色調変化(グラデーション)を定量的に評価することが可能になれば、審美領域の治療において、色調の忠実な再現に有用となることが予想される。本研究は、非接触で物体の表面色を計測できる分光イメージング装置を用い、試料および天然歯の測色を行い、歯冠のグラデーションを定量的に分析、評価することを目的とした。令和5年度は、令和4年度に続いて天然歯の測色を試みた。最終的には、30名以上の被検者の口腔内での測色を行う予定であるが、被検者の選定が遅れたこともあり、まず数名を対象に計測を行った。被検者には上顎右側中切歯にカリエスや着色を認めない健康成人を用いた。被検者の上顎をシリコーン印象材で印象採得し石膏模型を製作した。作製した模型上で、Erkoflexピュアホワイトおよびディープブラック(ERKODENT)を用いて、測色背景となる白色および黒色のマウスガードを作製した。測色部位となるマウスガードの上顎右側中切歯唇側部を切り取った。いずれかのマウスガード装着後、実験用台に下顎および額を固定した状態で、抜去歯と同様に分光イメージング装置(オフィス・カラーサイエンス)を用い、反射光計測を行い、分光イメージング分布を求めた。測色の際には、測色計と天然歯の歯冠唇側面が平行となるように被検者の顔を固定した。照明には人工太陽照明灯を使用した。測定データは専用の解析ソフトを用いて評価した。その結果、L*値は、歯頚部から中央部にかけて増加し、中央部から切縁部にかけて減少する傾向を示した。また、a*値およびはb*値は、歯頚部から切縁部にかけて減少する傾向がみられた。
3: やや遅れている
本研究で使用した分光イメージング装置は、ハイパースペクトルカメラによる光の分光情報から物質や生体の色調を非接触で評価できる特徴をもつ。この装置を用いれば、天然歯の歯冠全体を一度に測色ができるだけでなく、歯冠部の連続的な色調変化(グラデーション)を検討できることが期待された。被検者の口腔内で天然歯の測色を行うのが最終目標であるが、コロナの影響もあり、当初予定していた被検者を使用することができず、新たな被検者を探す必要が生じた。また、抜去歯の場合、白色および黒色のシリコン樹脂により背景を容易に作製することができたが、被検者の口腔内での白色および黒色背景を作製するのに手間取ったため、実験に遅れが生じた。以上より、本実験は抜去歯の計測は完了したが、被検者の口腔内での計測が十分とはいえず、予定より進行が遅れている。
実験計画に基づいて、健康成人の被検者を対象に、分光イメージング装置を用いて、口腔内で上顎中切歯の測色を行う(大阪大学大学院歯学研究科研究倫理委員会承認済み)。背景の影響を検討するため、白色と黒色の背景用マウスガードをシリコン材料で製作する。これには、シリコーン印象材で上顎を印象して得られた石膏模型を使用する。歯頚部から切縁部へのL*、a*、b*値の変化、および透過性TP、コントラスト比CR、分光反射率の変化を評価する。天然歯の結果をジルコニア試料と比較する。
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Dental Materials Journal
巻: 40 号: 5 ページ: 1080-1085
10.4012/dmj.2020-387
130008093757