研究課題
基盤研究(C)
全身麻酔からの覚醒時や静脈内鎮静時には、覚醒遅延や意識レベルの低下により呼吸抑制や上気道閉塞を起こし重篤な肺胞低換気や低酸素血症に陥ることがある。今のところ麻酔・鎮静深度を調節しうる薬物はないが、ドパミン神経刺激が意識を覚醒させることが知られていることから、本研究では、この機序を応用した方法が麻酔・鎮静深度の調節に有効か、神経組織学的、オプトジェネティクス(光遺伝学)、行動薬理学的、神経生理学的(脳波・筋電図)実験により明確にし、選択的ドパミン(D1-D5)受容体サブタイプのリガンドを用いた新たな麻酔・鎮静深度調節法の開発を目指す。
本研究の目的は、全身麻酔からの覚醒時や静脈内鎮静時には、覚醒遅延や意識レベルの低下により呼吸抑制や上気道閉塞を起こし重篤な肺胞低換気や低酸素血症に陥ることがあるが、今のところ麻酔・鎮静深度を調節しうる有効な薬物はないため、ドパミン神経刺激が意識を覚醒させることが知られていることから、この機序を応用した方法が麻酔・鎮静深度の調節に有効か、行動薬理学的、マイクロダイアリシス法、オプトジェネティクスおよび神経生理学的実験により明確にし、選択的ドパミン(D1-D5)受容体サブタイプのリガンドを用いた新たな麻酔・鎮静深度調節法の開発を目指すことにある。本研究により、どのドパミン神経経路が覚醒と関係しているのか明らかにし、この神経経路を選択的に刺激するドパミン受容体サブタイプのリガンドを用いた新たな麻酔・鎮静深度調節法を開発することを目指す。初年度の研究では、行動薬理学実験として、全身麻酔薬による鎮静や意識消失の指標としてマウスの正向反射の障害や消失をスコア化して測定した。静脈麻酔薬のペントバルビタールは20 mg/kgでは正向反射消失を示すマウスはいなかったが、軽度正向反射が障害された鎮静状態であった。また、ペントバルビタールは用量依存性に正向反射を消失させた。マイクロダイアリシス法によるドパミン量の測定では、ペントバルビタールは側坐核と線条体の両部位においてドパミン量を減少させた。ドパミン取り込み阻害薬のGBR-12909は有意に側坐核のドパミン量を増加させ、20 mg/kgのペントバルビタール投与による正向反射スコアを減少させることが明らかになった。しかし、正向反射消失作用には影響しなかった。本年度の研究では、初年度の研究をさらに発展させ、ドパミン枯渇薬のレセルピンが側坐核のドパミン量を有意に減少させ、正向反射に及ぼすペントバルビタールの作用を増強することを明らかにした。
3: やや遅れている
当初の予定では、神経生化学的手法(マイクロダイアリシス法)とオプトジェネティクス(光遺伝学)の遺伝子工学技術を用いて、側坐核のニューロンにチャネルロドプシン2(ChR2)を発現させた後、これを光刺激して神経興奮させることにより全身麻酔薬や鎮静薬からの覚醒を早めるか(オプトジェネティクス・マイクロダイアリシス実験)、明らかにする予定であった。しかし、残りの研究期間を考慮すると、これを遂行するのは困難と思われた。そこで、今後の研究では、これまでの研究成果をさらに発展させるため、脳波・筋電図測定を行い、行動薬理学実験で得られたデータの正当性を確認することとする。
これまでの研究で、マウスの正向反射スコアの測定を行い、静脈麻酔薬のペントバルビタールによる鎮静作用と意識消失作用を区別することが可能であることがわかった。また、マイクロダイアリシス法を用いて、ペントバルビタールは側坐核と線条体の両部位においてドパミン量を減少させた。ドパミン取り込み阻害薬のGBR-12909は有意に側坐核のドパミン量を増加させ、鎮静量のペントバルビタール投与後の正向反射スコアを減少させることが明らかになった。さらに、ドパミン枯渇薬のレセルピンは投与3時間後で側坐核のドパミン量を有意に減少させ、鎮静量のペントバルビタール投与で正向反射を消失させることが明らかになった。しかし、正向反射の障害や消失は感覚神経の入力だけでなく、運動神経の出力を遮断することでも起こり得る。したがって、今後の研究では、これまでの研究成果をさらに発展させるため、脳波・筋電図測定を行い、行動薬理学実験で得られたデータの正当性を確認することとする。
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