研究課題/領域番号 |
21K10249
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57080:社会系歯学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
篠田 壽 東北大学, 歯学研究科, 名誉教授 (80014025)
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研究分担者 |
木野 康志 東北大学, 理学研究科, 教授 (00272005)
千葉 美麗 東北大学, 歯学研究科, 講師 (10236820)
清水 良央 東北大学, 歯学研究科, 助教 (30302152)
高橋 温 東北大学, 大学病院, 准教授 (50333828)
鈴木 敏彦 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (70261518)
岡 壽崇 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (70339745)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 福島第一原発事故 / 乳歯 / 内部被ばく量 / 外部被ばく量 / イメージングプレート / ESR法 / Sr-90 / Cs-137 / 炭酸ラジカル / 福島第一原子力発電所事故 / ESR |
研究開始時の研究の概要 |
福島第一原発事故により環境中に放出された放射性物質の生物影響を明らかにするためには、ヒトや動物の被ばく量を個体レベルで明らかにする必要がある。本研究は、福島第一原発事故被災地から避難した小児より乳歯を収集し、それらの歯に含まれる放射性物質の量を測定し、個体の内部被ばく量に関する情報を得る。また、被ばく放射線量に比例して、歯質中に炭酸ラジカルが発生することが知られている。本研究では、歯からエナメル質を分離し、その中に含まれる炭酸ラジカルの量をESR法により測定し、個体の外部被ばく量に関する情報も得る。本研究は、歯を一種の生体内線量計とみなし、個体の被ばく量を推定しようとする点に特徴がある。
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研究実績の概要 |
歯はその形成期にSr-90やCs-137といった放射性物質を歯質中に取り込み、それらを、歯質中に半永久的に保持している。それらの量は、歯の形成期に体内に取り込まれた量に比例するため、乳歯中のSr-90やCs-137の量は、個体の内部被ばく状況を忠実に反映する指標とみなすことができる。一方、歯質中には、放射線被ばくに比例して、炭酸ラジカルが発生し、これらも、歯質中に半永久的に保持される。この炭酸ラジカル量をESR法により測定することにより、歯から、内部被ばく量のみならず、個体の外部被ばく線を推測することも可能である。本研究は、福島県在住小児より、原発事故以前に形成された乳歯と、事故後に形成された乳歯を収集し、歯質中の放射線量(QL値)を、イメージングプレート(IP)を用いて測定し、原発事故後に形成された乳歯中のQL値に増加がみとめられるか否かについて検討した。測定対象として、2018年4月以降、2022年末までに収集した乳歯、凡そ2,000本を用いた。これら乳歯を、原発事故前に形成された乳歯、歯質の一部が原発事故後に形成された乳歯、歯質のすべてが原発事故以降に形成された乳歯の3群に分け、それら乳歯中のQL値を比較した。その結果、現在のところ、3群の間には、統計的に有意の差は認められなかった。また、歯質の一部が事故後に形成された乳歯、歯質のすべてが事故後に形成された乳歯のいずれにおいても、福島県内と福島県外の乳歯に差は認められなかった。これらの結果は、原発事故後の福島県在住小児における、内部被ばく状況には、懸念されるような、有意の変動はなかったことを示唆している。ESR法を用いた外部被ばく量の測定に関しては現時点の被ばく量の検出限界値が100Gy以上と高値であるため、現在その検出限界値を改善すべく検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年、3年、4年とコロナ禍のため、歯科医院を訪れる学童の数が激減したため、研究に必要な、乳歯の収集数が、年間500本以下と少なかったものの、我々の研究室には、平成25年以降に集めた、原発事故以前に形成された乳歯の収集も多く、原発事故後に形成された乳歯についても、疫学的な評価が可能であった。Sr-90やCs-137の測定法、イメージングプレートを用いた歯質中放射線量の測定など、研究の遂行に必要な技術の蓄積もあり、研究は概ね、順調に推移している。歯を用いた外部被ばく量の推定に関しては、福島県在住小児で予測される50mGy以下の外部被ばく量を検出できる感度に達しておらず、現在、少数例を用いた、累積線量法など、別のESR法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
平成5年度においては、次の3点を中心に研究を継続する。 (1)令和4年度までに、収集した福島在住小児の乳歯の中で、福島第一原発事故以降形成された乳歯の割合が次第に多くなっている。しかし、これまでに収集した乳歯の歯種は、歯の脱落時期の関係から、前歯部の比率が高い。また、我々は、これまでの研究から乳歯中の放射線量(QL値)は、前歯部が他の歯種にくらべてやや高値を示すことを明らかにしている。今後は原発事故後に形成された歯のQL値が、事故前に形成された歯にくらべて、高くなっているかどうかを歯種ごとに比較することが可能となる。平成5年度においては、歯数を増やしながら、このことを確認する作業を実施する。 (2)事故後に形成された歯のQL値が高値を示した場合、その上昇がSr-90の上昇に依るのか、Cs-137の上昇に依るのかを確認する必要がある。令和5年度の研究においては、PHITSによるシミュレーションとプラスチックの遮蔽板を組み合わせ、QL値の発生に寄与する核種の同定を試みる。 (3)本研究ではESR法を用いて、歯から外部ばく量を推定するが、この際、照射放射線量とエナメル質中に発生するラジカル量の関係を示す基準線を用い、そのラジカル量から、外部ばく量を推定するという手法を用いてきた。しかし、この方法による検出限界値が、現在のところ100mGy前後と高いため、今回予測される福島在住小児の低線量被ばくには使用できない可能性も考えられる。そこで次年度の本研究に於いては、これに替わる方法として、試料に累積的に放射線を照射する累積線量法を用い、乳歯から外部被ばく線量を推定する。
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