研究課題/領域番号 |
21K10328
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58010:医療管理学および医療系社会学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
恒松 美輪子 広島大学, 医系科学研究科(保), 講師 (80704874)
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研究分担者 |
久保木 紀子 横浜創英大学, 看護学部, 講師 (30806328)
梯 正之 広島大学, 医系科学研究科(保), 名誉教授 (80177344)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ベーシックインカム制度 / 感染症対策 / 社会的合意形成 |
研究開始時の研究の概要 |
BIは、今後予想される人工知能の飛躍的な発展により予想される大量の失業対策として注目されてきたが、新型コロナウイルス対策として、ほぼすべての国民への特別定額給付金の支給が実現したことで、感染症対策に伴う経済活動の縮小状況・失職者の急増にも対応可能なことが広く認識され、さらに注目されている。しかし、BIは財源的に実現できるのか、人々がそれを受け入れることができるのかについては、さらに詳細に検討する必要がある。本研究では、統計データに基づく人口学的・財政的条件と人々の意識調査により把握される価値観・意見の分布をもとに、BIの実現可能性と社会的受け入れ可能性を検討・評価するものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、統計データに基づく人口学的・財政的条件と人々の意識調査により把握される価値観・意見の分布をもとに、BI(ベーシックインカム)の実現可能性と社会的受け入れ可能性を検討・評価するものである。本年度は、初年度に行った①人工知能普及による社会経済的影響の検討および②調査票の作成準備を引き継いで、以下の取り組みを行った。 (1)失業の影響分析に関する分析:感染症(新型コロナウイルス感染症)の対策評価にも使用された経済モデル(いわゆるソローモデル)を参考に、経済的側面、特に就業をめぐる社会的諸関係を分析するためのモデルの構築を試みた。感染症の分析で使用されたモデルは、単に労働力が生産に寄与することを表すモデルに過ぎないが、これを、行政による徴税や福祉の観点からの所得の再配分機能などが分析できるように拡張した。特に、人間がいまや経済的な生物であることを重視し、生活に必要な財やサービスの生産と流通の面を考慮した。これに既存の社会経済データを使用して分析できるよう、パラメター値の検討を行った。 (2)BIアンケート調査の実施:本年度は、BI制度が社会的に受け入れられるかどうかを分析するため、地域住民5,000人規模のアンケート調査を実施し、BIに対する価値観・考え方の意見分布を把握することを予定していた。そのため、まずはアンケート調査で使用する質問票の作成を進めた。しかし、実施に至る前に、ChatGPTのような生成AIが注目されるようになり、このような対話ソフトにより多くの知的業務や芸術的創造が取って代わられる可能性が指摘されるようになった。地域住民の意見もこれにより大きく変わる可能性が考えられ、このような生成AIの機能や影響に関する知見がある程度社会的に共有されるのを待ってアンケート調査を実施した方が望ましいと考えられた。そのため、調査の実施を次年度に繰り越し、実施することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)BI実施のための財源シミュレーションを含む社会経済モデルによる分析は、財源の詳細な検討を含むばかりでなく、就業や税体系、所得再配分の実際など多岐の観点を含むため、多大な労力が必要と予想される。人口統計データと業種別の就業者数などの社会経済データの両方を駆使して、人口動態モデルに基づいて数値的な予測が行えるようなシミュレーションシステムとして整備・構築し、効率的にシミュレーションが実施できるよう取り組みたい。 (2)BIの意識調査に関する文献は国内ではほとんどなく、欧米の文献をもとに、わが国に適用できる調査枠組と質問項目を検討したため、予定より時間を要した。当初計画では、本年度に質問項目等を決定し実施する予定であったが、生成AIについての社会的認識が一定安定してからの実施を目指し、次年度の前半に調査準備、後半で意識調査の実施ができるよう計画を進めている。分析のための時間が余りないことが予想されるので、どのような分析を行いそのようなことを明らかにするのか、十分前もって検討しての実施を心がけたい。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり、これまで一定の準備ができているので、次年度は次の3点を中心に研究を進めていく。 (1)効率的にシミュレーションが実施できるよう環境を充実させ、この研究のために構築した経済モデルを使用し、実際の社会経済データとの整合性を考慮しつつ新型コロナ感染症による影響や人工知能の普及による失業と健康被害を予測する。感染症の流行対策による経済的制約(失業を含む)等で間接的な健康影響も出ていることが考えられるので、その点を丁寧に分析し、参考にする。 (2)地域住民5,000人を対象にアンケート調査を実施し、BIに対する価値観・考え方の把握をもとに判断する。その際、アンケート調査に基づく基本事項の把握から、ある程度の範囲の政策に対する価値判断が可能になり、学術的に重要な研究と位置づけられる。本人の経済状況と同時に回答を得ることで、本人の所得水準と受け入れ判断の関連性を明らかにした上で、どの水準のベーシックインカムが多数決的に受け入れ可能かを意見分布に基づくシミュレーションにより明らかにする。 (3)財源の検討を中心に、既存の財源の振替と新規の財源の創出について検討し、どの程度の給付水準のベーシックインカム制度が、どの程度の税負担で実現可能となるのか、現実の経済的な統計データに基づくシミュレーションを行い、実現可能性を明らかにする。実際の日本での予算組替では、少子化対策や防衛費の増額の議論がありこれらも視野に入れた議論も必要と考えられる。これは大変難しい問題になるが、可能な限り検討に含めたい。
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