研究課題/領域番号 |
21K10417
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58020:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含む
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
漆原 範子 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (80396308)
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研究分担者 |
アウン メイジソウ 札幌医科大学, 医学部, 講師 (10749584)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | ブドウ球菌属細菌 / 黄色ブドウ球菌 / 薬剤耐性 / 食肉 / 家畜 / 伴侶動物 / CoNS / ブドウ球菌 / 大腸菌 / ゲノム / 系統解析 |
研究開始時の研究の概要 |
薬剤耐性菌の蔓延は世界的な問題である。薬剤耐性対策には動物,食品,環境等を含めた分野横断的に取組むこと,すなわちワンヘルスアプローチが重要である。本課題では愛玩動物や食肉等の生活環境における感染起因菌の動態を調査し,耐性菌のまん延防止や感染管理の基礎となるデータとすることを目指す。保有している耐性遺伝子の特徴づけや,高確率で検出される遺伝系統を明らかにし,ヒトで優位に検出される系統と比較解析し,両者間の類縁関係,伝播・進化について考察する。学術集会・科学雑誌での発表,得られたゲノム配列の公的遺伝子データバンクへの登録・公開を通じ,研究成果の共有とゲノム情報の集積に寄与する。
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研究実績の概要 |
薬剤耐性対策には医療のみならず,動物,食品,環境等を含めた分野横断的に取組むこと,すなわちワンヘルスアプローチが重要である。 ブドウ球菌属細菌は現在49種類が知られており,中でも黄色ブドウ球菌(S. aureus)は病原性が高く,院内感染,及び食中毒の原因菌として注視されている。血液凝集素コアグラーゼを分泌するか否かにより二分され,黄色ブドウ球菌はコアグラーゼ産生し,コアグラーゼ遺伝子を持たない種はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)と総称される。ブドウ球菌属細菌は種,または同じ種内でも遺伝子型(sequence type: ST)により一定の宿主特異性があり,主にヒトから分離される CoNS としてS. epidermidis, S. lugdunensis, S. haemolyticus, S. saprophyticus, S. warneri が挙げられ,家畜から分離される CoNSは S. xylosus, S. chromogenes, S. equorum, S. similans が多い。S. aureus は比較的広い動物種から検出されるが,動物ごとに分離率の高い遺伝子型がみられ,それらの適応性獲得に寄与する遺伝子変異が推定されているものもある。本研究は,その特徴に着目し,生活環境におけるブドウ球菌属細菌の分布と薬剤耐性を調査し,ゲノム配列に基づいた比較解析・系統解析を通して耐性遺伝子の進化,及び伝播の様態を明らかにすることを目的とする。 現在まで食肉から分離される菌体解析を中心に行っている。同定された菌種から家畜由来の菌体と,サプライチェーン等から混入する菌体が混在していると考えられ,薬剤感受性のパターンから食肉中の菌体とヒト感染起因菌との直接的な関連を示唆するものではないと推察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022 年度は前年度に続き食肉由来細菌の解析を中心に行い,菌体の収集,菌種の同定,薬剤耐性の調査を終えた。札幌市内,及び近郊の大規模小売店にて購入した鶏・豚ひき肉より得られた,ブドウ球菌属細菌 172,近縁の Macrococcus 属細菌 5,Mammaliicoccus属細菌 15,計192株について調査を行った。鶏肉由来検体では Simulans群が最も多く(n=40, 31%),豚肉由来の検体ではSaprophyticus群が最も頻度が高かった(n=26, 39%)。黄色ブドウ球菌は6 検体であった。うち 5 株は鶏肉から多く検出される遺伝子型,またはその近縁の型であり,その中の3株にavian-adaptation に関与する可動性遺伝因子が確認された。ヒトからの分離率が高い菌種,家畜から高頻度で分離される菌種が共に見られ,家畜由来の菌体と,サプライチェーン等から混入する菌体が混在していると考えた。一方,臨床での分離が多い S. epidermidis, S. lugdunensis, S. haemolyticus の検出頻度は低かった。薬剤感受性検査ではホスホマイシン耐性が最も多く(n=23, 12%),次いでエリスロマイシン耐性(N=13, 7%),その他は 5% 以下であった。臨床から分離される CoNS はペニシリン耐性,オキサシリン耐性を獲得している割合が 50 % 程度と高く,それらと異なる感受性のパターンであった。 以上のことから,食肉中の菌体とヒト感染起因菌との直接的な関連を示唆するものではないと推察した。上記の内容は第93回日本衛生学会学術総会にて発表した。 ヒト-伴侶動物間での薬剤耐性菌の伝播に関しては,予備的検討を開始した。家庭で飼育されている愛玩動物からブドウ球菌属細菌を分離し,薬剤耐性と関連遺伝子の調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
食肉由来株については薬剤耐性に関与する遺伝子の解析を行い,現在得ている結果と共に論文にまとめて投稿する予定である。 ヒト-伴侶動物間での薬剤耐性菌の伝播に関しては,予備的検討で24株のブドウ球菌属細菌の菌種の同定と薬剤感受性を調査した。ホスホマイシン耐性が多く見られ,半数以上(16/24)の菌体がホスホマイシンに耐性・感受性が低下していた。S. epidermidis が 3株分離され, 2株はオキサシリン耐性,且つメチシリン耐性遺伝子 mecA 陽性でり,残りの1株は宿主への定着を高める可動性遺伝因子 arginine catabolic mobile element を保持していた。これらはヒト臨床分離株でも多く見られる遺伝子的な特徴であり,こうした菌体が同一の個体から継続して保持されているか,飼育家庭から検出されるか等も検討する必要もあるかと考えられた。これらの予備的検討の結果を元に菌株を収集し解析する予定である。
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