研究実績の概要 |
【風疹ウイルスの感染/複製制御機構の解明】以下の解析から、風疹ウイルス(RuV)の感受性を規定する因子として、スフィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)を同定した(Yagi et al., iScience. 2023)。 RuVの感染/複製制御機構に関する洞察を得るため、ヒト胎盤絨毛癌細胞(JAR細胞)を使用し、CRISPR-Cas9システムによる機能喪失スクリーニングを実施した。その結果、スフィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)が、RuVの感染/複製を制御する可能性のある宿主因子に挙げられた。SMS1の遺伝子ノックアウトにより、JAR細胞のRuVに対する感受性が失われた。その失われた感受性は、SMS1の再導入により回復した。病原体(RuV)-宿主相互作用の一端を明らかにできた。 【風疹ワクチンによって誘導される抗体のパネル化とエピトープの決定】 シングルB細胞から抗体遺伝子を取得し、試験管内で発現した抗体を迅速に評価するEcobody技術を活用して、風疹ワクチンを接種したボランティアより提供された血液から、RuVを中和するヒトモノクローナル抗体の取得を試みた。10名のボランティアの血液検体から、RuVに反応するメモリーB細胞を選別し、一細胞RT-PCRによる抗体遺伝子の取得、試験管内Fab作製、結合評価によって、反応性の抗体を同定した。再構成したフルボディをリコンビナント抗体として作成して性能を評価した結果、2つのクローンが中和活性を示し、これらがRuVのエンベロープタンパク質E1に結合することが確認された(大内, 上林ら、第46回日本分子生物学会年会、第2回日本抗体学会学術大会、2023)。
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今後の研究の推進方策 |
【風疹ウイルスの体内からの排除に関連する免疫因子の解析】患者血清や末梢血単核球を使用し、サイトカイン類の誘導量を蛋白質・mRNAの発現解析で評価する。特にTH subset(TH1, TH2, TH17, Treg)活性の優位性を明確にするためinterleukin-2, 4, 5, 6, 10, 13, 19, 17, 21, 22, TNFα, TGFβ, IFNγの誘導量を市販のELISAキットやReal-time RT-PCR法にて測定する。また、末梢血単核球について、Flowcytometryを用いてTH1(CD4+, IFNγ+), Th2(CD4+IL4+), TH17(CD4+IL17+), Treg(CD4+CD25+FOXP3+)の存在比を明らかにする。上記により風疹ウイルスの体内からの排除の過程での細胞性免疫(TH1)又は液性免疫(TH2)の優位性、免疫応答のバランスを明らかにする。 【風疹ウイルス E1領域の準種解析】風疹ウイルスの抗原性に関与するE1領域を対象に次世代シーケンサーを用いた準種解析を行う。風疹ウイルスゲノムのレパートリーと存在比率を明らかにし、免疫学的圧力の存在下、非存在下での多様性の程度を明らかにする。 【風疹ワクチンによって誘導される抗体のパネル化とエピトープの決定】ヒト血液から網羅的に抗原に反応する抗体を作製しパネル化する。その中から、中和活性等を持つ機能性抗体を探索する。ワクチンが効果を発揮できない免疫学的弱者における感染防御や妊婦の予防的並びに急性感染の治療に使用できる抗体医薬品の開発に繋がる知見を得る。 【Single-Cell RNA Sequencing/RNA Sequencing技術を用いた風疹患者/先天性風疹症候群患者の免疫反応の可視化】Single-Cell RNA Sequencing技術を用いて、風疹患者(Breakthrough Infection患者を含む)における免疫反応を単一細胞レベルで明らかにする。また、Breakthrough Infection症例におけるTCRとBCRのレパトア解析を実施したい。加えて、先天性風疹症候群患者の宿主免疫応答をbulk RNA Sequencing技術を用いて明らかにしたい。
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