研究課題
基盤研究(C)
SGLT2阻害薬は尿糖排泄を増やす経口糖尿病薬であるが、心腎保護のエビデンスも蓄積され、日本でも臨床使用が増加している。一方で、海外から下肢切断リスクが増加する可能性について警告されたが、結論は明らかではない。本研究では日本の保険診療のレセプト情報(NDBおよびKDB)のコホート化技術を用いて、日本の糖尿病患者のSGLT2阻害薬による下肢切断のリスクについて疫学的に調査する。これにより、SGLT2阻害薬による日本人の下肢切断リスクの再現性、薬剤による違い、リスク因子を明らかにし、より選択的かつ効果的なSGLT2阻害薬の処方が可能になり、糖尿病患者の治療の質改善に繋がることが期待される。
『糖尿病患者の下肢切断リスク』解析を大規模医療データベースNational databaseを用いて実施した。これは本邦における下肢切断の全国統計の最初の報告であり、下肢大切断と小切断の発生率は、糖尿病のない人とある人で各々10倍、15倍高いことを明らかにした。観察期間中に、年間の小切断率は一定のままであったが大切断率の有意な低下が観察され、これらの結果をBMJ Openに明らかにした。その後、『SGLT2阻害薬使用後の下肢切断発生率』の解析を実施し、年齢、性別、併存疾患、併用薬を調整したうえでSGLT2阻害薬投与群は大切断は少なく、SGLT2阻害薬の種類による差はなかった。小切断は有意に少なく、種類別ではダパグリフロジンとカナグリフロジン投与群で小切断は少なく、他のSGLT2Iでは差がなかった。観察期間は1036±746日と既報と比較して長く、より実態を捉えている可能性はある。この成果を糖尿病学会で報告した。その後、上記研究で得たレセプト解析技術を用いて、新たな研究課題に取り組んだ。『抗甲状腺薬による無顆粒球症』解析を実施し、抗甲状腺薬開始後の無顆粒球症のリスクは二相性であり、最初の 72 日間の発症率は 1000 人年あたり 37.2 (72 日間で 0.7%) 、その後(緩徐)の発症率は1000 人年あたり 3.1であり、緩徐発症群の発症率は急性発症群の約10分の1だが、少なくとも6年間は持続した。再投与群においても、白血球減少症とG-CSF投与の発症率は、初回投与と同様であった。これらをSciectific Reportに発表した。その後、『免疫チェックポイント阻害薬による内分泌疾患の病態解明』研究に取り組み、甲状腺機能低下症、副腎不全症、1型糖尿病の正確な発症率とリスク因子、生存予後への影響を内分泌学会で報告予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究期間中にSGLT2阻害薬の保険適応病名が糖尿病だけでなく、心不全やと運表病性腎症に拡大したことで当初の研究計画よりも定義が複雑化した。対象患者の定義変更を行い、SGLT2阻害薬を服用している糖尿病患者に限定して当初の計画通り下肢切断について研究を進行し、概ね研究計画にそってSGLT2阻害薬の糖尿病患者への下肢切断について解析結果を明らかにして学会報告ことができたため、本研究の進捗状況はおおむね順調に進行していると考える。また、同時進行で新たな課題である抗甲状腺薬による無顆粒球症や、免疫チェックポイント阻害薬による内分泌疾患研究についても取り組めたことについては、当初の計画よりも進行しているともいえる。
新たな研究課題である『免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病』解析、『免疫チェックポイント阻害薬による内分泌疾患の病態解明』解析について、前者は2023年糖尿病学会年次学術集会で発表し、現在論文に英語投稿中である。後者については、2024年内分泌学会で発表し、英語論文化を目指す予定である。
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