研究課題/領域番号 |
21K11174
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59010:リハビリテーション科学関連
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
緒方 勝也 国際医療福祉大学, 福岡薬学部, 教授 (50380613)
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研究分担者 |
桐本 光 広島大学, 医系科学研究科(保), 教授 (40406260)
中薗 寿人 福岡国際医療福祉大学, 医療学部, 講師 (70814771)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | F波 / 筋電図 / 多チャンネル / 運動誘発電位 / 経頭蓋磁気刺激 / 脳波 / ニューロリハビリテーション / ニューロフィードバック / 脳状態依存刺激 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究計画ではこれまで明らかにしてきた運動誘発電位(MEP)の時間的揺らぎに対して、MEPの標的筋と周囲筋の応答の差異(空間的揺らぎ)に着目する。MEPを多チャンネル(ch)で同時記録し、MEPの空間的揺らぎと脳波の関連(脳波-多chMEP連関)のシステムを構築、分離運動時の脳波律動を解析する。続いて脳波律動に合わせ磁気刺激を行う脳状態依存刺激で分離運動の誘発を行い、脳波-多ch MEP連関を検証する。これらの研究を基に、脳波律動を被験者に視覚提示するニューロフィードバックに応用する。 一連の研究を通じて手指分離運動の神経基盤の理解を深め、新たなニューロリハビリテーション方法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
昨年度一次運動野に対し周期活動の影響を評価するため経頭蓋交流電流刺激で外部より皮質活動を同調させ、別の脳刺激法である間欠性シータバースト刺激に対する応答を評価した。その結果10 Hzの交流電流刺激ではシータバースト刺激の促通効果を位相依存的に抑制することが明らかとなり、一方20 Hzの交流電流刺激では位相に関わらずシータバースト刺激の促通効果を抑制することが明らかとなった。これらのことから一次運動野内の周波数、位相依存的な刺激に対する可塑性の知見が得られたが、一次運動野への単発経頭蓋磁気刺激で運動誘発電位振幅が大きな変動を示すことが確認され、錐体路から脊髄前角細胞の興奮性が変動し応答の変動がもたらされることが考えられた。本年度は脊髄前角細胞の変動と手内筋の間での協同性の変動を明らかにするため手内筋3か所(短母指外転筋、第一背側骨間筋、少子外転筋)よりF波を計測した。結果として正中神経、尺骨神経の同時刺激により短母指外転筋、第一背側骨間筋のF波は振幅が増大することが示されたが、小指外転筋ではそのような効果は得られなかった。本結果は母指-示指間の機能的、解剖的連関の強い部位では脊髄興奮性に相互作用が生じるが、母指-小指と離れた部位では独立に近い活動となることを示唆する。今後データ解析を更に進め、また今回得られた相互作用が経頭蓋磁気刺激による錐体路刺激で受ける影響を評価し次の研究につなげていく。それに続き、経頭蓋磁気刺激とF波の間の関連が脳波活動で得られる一次運動野の活動性に反映されることが仮説として立てられるため、その脳波-経頭蓋磁気刺激-F波の関連性を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は右手内筋3箇所より安静条件で記録し、正中神経、尺骨神経より刺激を行った。刺激条件は正中神経、尺骨神経単独刺激、同時刺激、正中神経先行条件(ISI 10, 50 ms)、尺骨神経先行条件 (ISI 10, 50 ms)とした。各条件50回計測し、解析に用いた。F波はM波に重畳した小さな反応で、M波の傾斜した非線形の波形の一部に刺激毎に変動する波形として記録される。M波は一定しているため視察上の同定は可能だが、振幅測定に際してはM波の非線形成分が影響した。非線形成分を除去するため、各試行に多項式、もしくは指数関数を含む非線形関数を当てはめた。残る線形成分も除去し、試行毎のF波振幅を精密に測定することができた。結果として、正中神経、尺骨神経単独刺激条件のF波に比し、同時刺激での短母指外転筋、第一背側骨間筋の振幅は増大したが、小指外転筋は増大を示さなかった。短母指外転筋、第一背側骨間筋の相互の促通はISI 10 msの間隔を開けると効果が減弱するものの促通傾向が観察され、母指-示指間の促通性相互作用が存在し、相互作用の時間窓があることが示された。一方母指-小指間ではそのような相互作用がなく、母指-示指は手指の中でもつまみ動作など非常に緊密に動作するため母指-小指間にない機能連関が存在することが示唆された。 上記の結果から脊髄レベルの安静時における手内筋活動の分離、共同運動に関わる神経基盤の理解を更に深めることができた。またこれを踏まえ、脊髄興奮性に錐体路が与える影響を評価するため経頭蓋磁気刺激を先行し、手内筋3箇所よりF波を計測し、母指-示指間、あるいは母指-小指間の相互作用に錐体路興奮が与える影響を検討するため計測を開始している。今後の研究により大脳皮質から脊髄までの一連の構造が手指巧緻運動を実現する機序を明らかにできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度得られた手内筋の脊髄興奮性の相互作用を更に明らかにするため、経頭蓋磁気刺激による錐体路刺激の影響を評価する。今年度と同様手内筋3箇所より筋電図を記録し、正中神経、尺骨神経を電気刺激する。刺激は正中、尺骨神経単独刺激、および同時刺激を行い、更に経頭蓋磁気刺激 (ISI 30 ms)の先行刺激の有無による6条件を設定する。経頭蓋磁気刺激による錐体路の促通により正中神経、尺骨神経同時刺激による母指(短母指外転筋)-示指(第一背側骨間筋)の相互作用が更に明瞭になることが予想されるが、一方錐体路は共同、分離運動それぞれに関わるため、F波の相互作用が減弱する可能性も考えられる。同様に母指-小指(小指外転筋)も末梢神経刺激のみであれば相互作用はほぼない状態であるが、錐体路刺激により相互作用が新たに観察される可能性があり、錐体路刺激による脊髄興奮性への影響が明らかになるであろう。 続いて脳波を用いた経頭蓋磁気刺激-運動誘発電位の空間的変動を解析する。開眼状態で左運動野上から単発磁気刺激を行う。筋電図はこれまでと同様に手内筋の3筋に配置、脳波は頭皮上32箇所の電極を配置し、200試行記録する。単発刺激による運動誘発電位を3つの手内筋から記録するが、刺激毎に各筋の応答が異なり、また各筋の応答は一様ではないことが予想される。すなわち手内筋は共同運動や分離運動に対応する状態を遷移していることが考えられる。この筋応答の状態が脳状態と関連付けられるか評価するため、脳波計測を行う。脳波は磁気刺激直前の区間を取り出しウェーブレット変換による時間周波数解析を行う。周波数帯域毎に大脳皮質の興奮性の意義があると考えられており、脳波周波数成分と運動誘発電位間の連関を評価する。これらの研究を通じて大脳皮質が手内筋の興奮性と巧緻運動をもたらす神経基盤が更に明らかになると期待される。
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