研究課題/領域番号 |
21K11375
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59020:スポーツ科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
内山 武人 日本大学, 薬学部, 教授 (90261172)
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研究分担者 |
宮本 葵 日本大学, 薬学部, 講師 (20513914)
青山 隆彦 日本大学, 薬学部, 講師 (70384633)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ドーピング / クレンブテロール / 薬物代謝 / 同時定量 / 光学活性体 |
研究開始時の研究の概要 |
アスリートが禁止薬を「故意」に摂取したのか、あるいは「うっかり」して摂取したのかを正しく判断する際に、代謝物に関する情報を分析することは大きな意味を持つ。本研究では、気管支拡張薬として用いられる一方で、筋肉増強薬としてドーピング禁止薬に指定されているクレンブテロールとその代謝物に着目する。複数の想定代謝物を化学的に合成し代謝物の同時定量法を確立するとともに、確度の高い薬物動態モデルを構築し、ドーピングの適正な判断に資することが本研究の目的である。本研究により得られた知見は、ドーピング検査においてより正確な判定を可能とし、公正なスポーツを行うための活動に寄与できるものと考える。
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研究実績の概要 |
治療目的ではなく競技能力の向上を目的として摂取される薬物、いわゆるドーピング禁止薬の代謝物に関する知見は非常に乏しい。本研究では、気管支拡張薬として用いられる一方で、筋肉増強薬としてドーピング禁止薬に指定されているクレンブテロールとその代謝物に着目する。クレンブテロールは古くから使われている薬剤であるにも関わらず、代謝物血中濃度の経時的変化についてはほとんど解明されておらず、クレンブテロールの代謝反応機構および関与する酵素に関しても詳細は明らかにされていない。したがってクレンブテロール代謝物について時間推移とともに明らかにすることは、クレンブテロールの薬物動態を理解することに繋がる。 本研究では、まず想定される代謝物の化合物ライブラリーを化学合成法により構築し、次に、化学合成した代謝物を標品としてクレンブテロールおよび代謝物の生体試料中濃度同時測定系を確立する。2021年度は、代謝物の一つとして想定されているニトロ誘導体の大量合成法の確立に成功した。また、合成ニトロ誘導体を用いてクレンブテロールを同時に測定するLC-MS/MS条件検討をおこないながら、薬物およびその代謝物の体内動態予測法についても検討をおこなった。2022年度は、生体内における薬物代謝の検証を立体化学的な側面からも行えることを可能とするために、クレンブテロールの代謝物である合成ニトロ誘導体の光学分割とその絶対立体配置の決定ならびに光学活性クレンブテロールへの変換法を確立した。さらに、合成代謝物を標準品としてラット血漿、肝ミクロソーム中およびヒト肝ミクロソーム中における代謝物の検量線を作成するとともに、クレンブテロールを基質としたラットおよびヒト肝ミクロソームを用いた代謝実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クレンブテロール代謝物、特にCYPによる酸化的代謝を受けたと考えられているニトロ誘導体の化学合成法に関する報告はこれまでにない。本研究により。昨年度までにニトロ誘導体の大量合成法を確立し、グラムスケールでの合成が可能であることを証明した。本年度は、検討課題であった代謝物の一つと考えられているヒドロキシアミン誘導体への変換を様々試みたが、その不安定さ故に目的物を得ることができなった。一方、合成可能となったニトロ誘導体について光学活性体の調製を試みたところ、キラルカラムによる合成前駆体の光学分割をおこなうことで、光学純度がほぼ100%なニトロ誘導体の調製が可能であることを明らかにした。さらに、その絶対立体配置についても新Mosher法やX線結晶構造解析により決定することができた。また、光学活性ニトロ誘導体のニトロ基を選択的に還元することで光学活性クレンブテロールへの変換が可能であることも見出した。 昨年度構築したLC-MS/MS測定系を用いて、合成代謝物(ニトロ誘導体)を標準品としてラット血漿、肝ミクロソーム中およびヒト肝ミクロソーム中における代謝物の検量線作成を行った。さらにこの検量線を利用して、クレンブテロールを基質としたラットおよびヒト肝ミクロソームを用いた代謝実験を行い、経過時間によって基質と代謝物の量が変化する過程を追うことが可能であることが明らかとなった。また、昨年度構築した薬物動態モデルの予測精度向上のため、既報の腎クリアランスモデルの応用を試みたが、既報の腎クリアランスモデルによる予測が困難であることが明らかとなった。 以上の進捗状況から、解決できていない検討課題があるものの、当初の予定にはなかった新たな知見も得られていることから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
さらなる合成代謝物ライブラリーを構築するためにクレンブテロールのグルクロン酸抱合体に着目し、化学合成による供給法を確立する。これまでの研究結果によりラット血漿および肝ミクロソーム中におけるクレンブテロール濃度測定系は確立していることから、化学合成された代謝物を標準品として用い、ラット血漿、 肝ミクロソーム、ヒト肝ミクロソーム中の代謝物濃度同時測定系を構築する。また、特定の代謝酵素の分子種を高発現させたリコンビナント酵素を用い、クレンブテロールの代謝に関わる代謝酵素の分子種を同定する。同定できた代謝酵素分子種については、酵素速度論的検討を行い、代謝活性を測定する。さらに、ラット血中におけるクレンブテロールと代謝物濃度の経時的推移、尿中排泄速度データ、代謝酵素の速度論的データを用いて生理学的薬物動態モデルを確立するとともに、ヒトの生理学的パラメータにスケールチェンジすることによりヒトの生理学的薬物動態モデルを構築する。本研究において得られたヒト肝 ミクロソーム等の実験データおよびクレンブテロール血中濃度経時的推移の文献データを活用し、メタ解析を行うことによりヒト体内動態の推測と予測精度の向上を図る。より確度の高い薬物動態モデルを提供することが本研究の最終目標の一つである。 また、クレンブテロールは不斉中心を有する医薬品であることから、立体化学的な視点から薬物動態を捉えるために光学異性体の分離・定量法を構築し、クレンブテロールの光学活性体を基質とした代謝実験を行う。すなわち、代謝酵素がクレンブテロールに対し立体選択的な特徴を示すか検証する。また、ラットを対象にLC-MS/MS測定系を用いながら、時間推移に配慮したクレンブテロールおよび合成代謝物の薬物動態実験を行なうことにより、クレンブテロールおよびその代謝物の生理学的薬物動態モデル構築を試みる。
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