研究課題/領域番号 |
21K11488
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59020:スポーツ科学関連
|
研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
長田 洋輔 岡山理科大学, 生命科学部, 講師 (50401211)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | C2C12 / 骨格筋 / 筋肥大 / 筋分化 / 細胞融合 / 電気刺激 / 筋サテライト細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,培養細胞を用いた筋核数増加実験系の確立と,細胞融合部位の効率的な観察方法の確立を並行して実施し,両者を合わせて,筋核数増加実験系における細胞融合メカニズムの観察および機能解析を行う。さらに,単一筋線維への細胞融合を試み,人為的に融合可能部位を定めることで筋線維への人工的な筋核の付与が可能であるか検証する。
|
研究実績の概要 |
骨格筋はわれわれが体を動かすために必要な組織であり,損傷を修復する再生能と,使用状況によって肥大/萎縮する可塑性を持つ。筋肥大は,おもに筋線維のタンパク質合成量が増加することによって起こるが,骨格筋に大きな負荷が与えられた場合には,筋サテライト細胞に由来する筋芽細胞の融合によって新たな筋核を獲得する。筋細胞の融合におて,細胞融合部位が決定される過程については十分に解明されていない。また,筋芽細胞同士の融合については理解が進んでいる一方で,筋線維と筋芽細胞の融合に関する研究は遅れている。その理由の一つとして,筋線維への細胞融合の検出が容易でないことが挙げられる。 当該年度は,マウス筋芽細胞株C2C12の筋分化を安定かつ再現性良く誘導するために,筋特異的転写因子MyoDをドキシサイクリン依存的に発現誘導することのできるC2Tet-MyoD細胞を樹立し,主にこの細胞を用いて実験を行った。血清および低濃度のドキシサイクリン存在下で分化誘導を行い,電圧20V,パルス持続時間2.5ms,周波数1Hzの電気刺激を24時間与えたところ,筋管の横径は約1.7倍,筋核数は約2倍に増加した。このことから,培養筋細胞への電気刺激によって細胞融合を伴う筋肥大を誘導できたと考えた。また,ウェスタンブロットによる横紋筋型ミオシン重鎖の検出は,電気刺激によるミオシン発現量の増加を示していた。細胞融合に先駆けて起こる細胞接着の変化を可視化するために,M-cadherin,β-catenin,p120 cateninの蛍光免疫染色を行い,電気刺激によってこれらが細胞間に線状に局在することが明らかになった。また,アポトーシスの制御に関わるBcl-2の機能解析を行い,Bcl-2がC2C12細胞の生存を促進するだけでなく,未分化性を維持したまま自己複製する過程を促進することを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
テトラサイクリン系抗生物質ドキシサイクリンの添加により,長期にわたって安定的かつ再現性良く分化誘導できるマウス筋芽細胞株C2Tet-MyoD細胞を樹立した。この細胞を用いて,1~2%の胎児ウシ血清および0.1~0.2 mg/mLのドキシサイクリンを含む分化培地で3日間の培養を行ってから、電圧20 V,パルス持続時間2.5 ms,周波数1 Hzの条件で24時間の電気刺激を与えることにより,細胞融合を伴う筋肥大を誘導することに成功した。具体的には,電気刺激によって筋管の横径は約1.7倍に増加し,筋核数も約2倍に増加することを確認した。さらに,細胞融合箇所に注目するために,細胞接着関連因子であるM-cadherin,β-catenin,p120 cateninの蛍光免疫染色を行い,これらの因子がいずれも電気刺激によって細胞間に線状に局在することが明らかになった。なお,電気刺激を行わない場合には同様の局在は観察されなかった。これらの結果は、電気刺激が細胞接着分子の局在に影響を与え,細胞融合を促進する可能性を示唆している。また,筋細胞融合に関与するmyomakerの免疫細胞染色も試みているが,細胞膜近傍のmyomakerを特異的に検出することが困難であるという課題に直面した。そのため,現在は別のアプローチを検討している。また,アポトーシスの制御に関わるBcl-2の機能解析を行ったところ,Bcl-2がC2C12細胞の生存を促進するだけでなく,未分化性を維持したまま自己複製する過程を促進することが明らかになった。この発見は、筋芽細胞の生存と増殖の制御におけるBcl-2の重要な役割を示している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにC2Tet-MyoD細胞への電気刺激によって細胞融合を伴う筋肥大の誘導に成功した。今後は,親株であるC2C12細胞,およびヒト由来の不死化未分化筋芽細胞株Hu5/KD3でも実験を行い,電気刺激の汎用性を検証する。 細胞融合部位を同定するための実験として,M-cadherin,β-catenin,p120 cateninの検出に成功した。今後は,筋細胞特異的に細胞融合に関与することが報告されているmyomaker,myomixerの検出を行う。さらに,筋細胞の融合前後でダイナミックな変化が起こる脂質マイクロドメイン等の検出を試みる。myomakerについては市販抗体での検出に困難さが生じたため,先行研究に基づいて遺伝子内部にエピトープタグを挿入したmyomakerの強制発現,あるいは内在性myomaker遺伝子にゲノム編集技術を用いてエピトープタグを挿入し,検出することを検討している。これによって,myomakerの発現や局在をより正確に解析することが可能となる。発現や局在に変化が見られたものについては,siRNAあるいはmiRNAを用いた機能抑制実験,強制発現による機能増強実験を行い,細胞融合を伴う筋肥大における役割を明らかにする。 また,遅筋型ミオシン重鎖や速筋型ミオシン重鎖の発現パターンを免疫細胞染色,ウェスタンブロット解析,定量的RT-PCR等の方法によって調べることで,電気刺激が筋線維型にどのような影響を与えるかを明らかにする。これにより,筋線維型のシフトが起こるかどうか,またそのメカニズムについての理解が深まることが期待される。
|