研究課題/領域番号 |
21K11518
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59030:体育および身体教育学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大石 純子 筑波大学, 体育系, 教授 (50410163)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 武道思想 / 女性 / 近代 / 女學雑誌 / 巖本善治 / 香川輝 / 剣道 / 薙刀 / 近代化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、武道思想の近代化過程に「女性」という存在がどのような影響をもたらしてきたのかを解明することを目的とする歴史研究である。研究方法は、明治・大正・昭和初期に執筆された剣道書や薙刀書の中に現れる「女性」に関する言説を分析解釈する文献学手法を用い、著者の剣道観や薙刀観及び武士道観などの武道思想が近代化されていく過程において取り込まれていった「女性」という要素が如何様に解釈され、どのようなインパクトをもたらしたかを考察する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、武道思想の成熟発展過程の中でも、武道における技法の修練が人間修養という教育的側面と表裏一体として明確に考えられるようになったとともに、女子教育の興隆や多様な女性観の台頭が目覚ましかった近代という時代に焦点を当てている。そして近代武道論の中でも「女性」に関する言説が顕著に確認できる剣道、薙刀に着目しつつ研究を進めてきている(大石2019・2020,井上1994)。この観点からまず、①剣道家であった香川輝、山岡鉄舟、西久保弘道らの「女性」に関する言説について内容の解釈をし、それら人物の経歴や人脈を踏まえて、言説生成過程を解明し、そこから各人物における武道思想の形成において「女性」という要素がどのような影響を及ぼしたのかを明らかにしつつある。特に、②女子教育に武道を積極的に取り入れた巌本善治、星野天知、薙刀指導者であった美田村邦彦らの「女性」に関する言説もそれぞれ取り上げその内容の解釈、それら人物の経歴や人脈を踏まえて、言説生成過程を解明し、そこから各人物における武道思想の形成において「女性」という要素がどのような影響を及ぼしたのかについても明らかにすることを目指す。それらの考察により、武道思想の近代化過程において「女性」という要素が果たしてきた役割について俯瞰的に解明することが本研究課題の目的である。 2022年度では、星野慎之輔(天知)の言説である「武道の發源」を解釈し、第55回日本武道学会において発表した。その中で、明治女学校における武道を活用した女子教育とその社会への発信を通して、当時の人々における武道に対する無理解を星野が認識したことが、「武道の發源」成立の背景にあったであろうことを論じた。巖本善治の言説についても先行研究の知見見解を踏まえてさらに考察している。星野や巖本の言説は、武道と女子教育を密接に絡め論じており、今後一層検討を深めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度において「女學雑誌」に掲載されている巖本善治により執筆された「武道の辨」が巖本武道論としてまとまったものであることが把握され、その解釈の一端を進めた。しかし、その論の形成において「女性」という要素がどのように影響を及ぼしていたのかの全容解明については課題として残されたままであった。 そこで2022年度の研究の具体的推進として、「女學雑誌」に掲載されている巖本善治により執筆された「武道の辨」の内容の考察をさらに進め、特に「女性」という要素が、巖本の武道論形成にどのような影響を及ぼしたのか細部の解明を進めていくことを試みた。その中で、巖本に、武道の意義や価値を薫陶した人物と考えられる星野天地(慎之輔)との関係性や星野の言説分析に作業の中心が移っていき、星野の執筆した「武道の發源」について考察を深めた。その研究の成果の一端を日本武道学会第55回大会で発表した。 星野は、武道修行者として知られる一面もあり、女性と武道を絡めた論稿も多く残した。この意味で、本研究課題を進めるにあたって重要な人物であり、今後も引き続き考察していく。一方で、星野が雑誌「女学生」の「武講欄」などに執筆したとみられる論稿の調査が、コロナの影響などもあって十分に進められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、武道の近代化の過程において取り込まれていった「女性」という存在がどのような影響をもたらしてきたのかを解明することである。ここまでで、近代期の剣道家であった香川輝(文久2(1862)~大正12(1923))の言説に見られる女性への言及の分析、明治女学校の校長として女子教育に武道を取り込んだ巖本善治(文久3(1863)~昭和18(1943))の武道論の分析、同じく明治女学校で武道による女子教育を実践した星野天地(文久2(1862)~昭和25(1950))の言説分析を行い、課題の一端を解明してきた。 一方で、明治初期の近代武道思想の全容の把握が不十分であるために、巖本や星野の執筆した女子教育と絡んだ武道論が、当時の他の武道論に比して特異的であったのかどうか、また、何らかの影響を与えていたのかどうか、については未解明である。 加えて、香川、巖本、星野らと生を重ねた山岡鉄舟(天保7(1836)~明治21(1888))、西久保弘道(文久3(1863)~昭和5(1930))、美田村邦彦(明治21(1888)~昭和20(1945))なども、その武道論関係言説において女性への言及が窺われ、彼らの言説をも含めた近代期の武道思想における「女性」という要素の影響の全体像の解明を目指したい。 以上を踏まえ、2023年度では、文献資料が手元にある、巖本善治と星野天知の武道論を引き続き分析考察していくとともに、学会発表として調査を進めた知見を論文(英語論文)として発表することを目指す。巖本や星野は先学でも指摘されているように基督教信仰を有する人物であり、彼らの武道論の中には女性への言及とともに基督教への言及も垣間見える。武道思想の近代化への女性の影響の一端として基督教の観点も考察していきたい。
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