研究課題/領域番号 |
21K11547
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59030:体育および身体教育学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
砂原 伸行 金沢大学, 保健学系, 准教授 (30624613)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 音源定位 / 眼球運動 / 視線計測 / 聴覚認知 / 高次脳機能 / 注意機能 / 聴空間認知 / 空間性注意 |
研究開始時の研究の概要 |
音源の方向を判断する(音源定位)能力は音の方向感認知能力と言われ,発達途上,加齢,脳損傷などで低下する.教育やリハビリテーションの現場でこの能力は指導・ケア時の誘導や危険認識において頻回に利用されている.従ってこの能力の簡便な評価方法の構築が求められている.本研究では音源定位には視線を音源に向けるという注意機能も必要なことを加味して,視線位置の解析も含めたシステムの構築を目指す.具体的にはステレオ音源が呈示可能なPCモニターを用いて,音源定位を視線で行うシステムをPC画面上で構築する.この画面上の視線移動も計測出来るシステムの構築により,音の方向感認知能力を簡便に把握することが可能となる.
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研究実績の概要 |
本研究の目的は非接触型の視線計測を音源定位の手段として,音の方向感認知能力のコンパクトな評価システムを構築することである.昨年度はコンパクト化にあたりスピーカー列が65インチ相当のTVモニター横幅(約143cm)での検討を行い,健常人で軽微な左空間での処理能力の低下等の特徴が明らかとなった.本年度はさらにコンパクト化した45インチ(約99cm)及び32インチ(約70cm)相当の横幅の音源呈示状況の検討を行った. 音源の設定は左右10°,20°と正中0°であるが,32インチに関しては右空間では右方向へ,左空間では左方向への偏倚が大きく,全体として外側方向へ視線方向が偏倚する傾向がみられた.また偏倚量自体は左20°位置の左方向への偏倚が大きかった.本検討では65インチTVモニター上で32インチ視聴時相当の範囲を設定しため,スピーカーを隠した暗幕の裏側にスピーカーが存在しない範囲があり,この暗幕部分が音の出る可能性のある範囲として被験者には視覚的に認識されていた可能性が考えられた. 45インチに関しても同様の傾向が認められており,左右空間ともに外側へ視線方向が偏倚する傾向がみられた.32,45インチともに左右両空間で外側へ偏倚したのは,音源定位がスピーカーの存在しない暗幕部分に影響を受けた可能性が考えられた.つまり余白としての暗幕部分が視覚刺激となり,音源定位を行う際の視線方向を外側へ向かうよう作用していた可能性が考えられた.また45インチでは右空間においてより外側すなわち右方向への偏倚が強かった.このことは右空間において健常人での潜在的な左無視傾向を示していると考えられた. 以上から臨床上の計測に際しては,健常人での潜在的な左空間での処理能力の低下への配慮とともに,音源を呈示する空間の認知的枠組みにも留意する必要性が明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は65インチ相当を音源呈示範囲として,若年健常人を対象に基礎データを得た.その結果,音源定位においても軽微な左空間での処理能力の低下があることが推察された.本年度は今後のコンパクト化を目指すにあたり,より狭い音源呈示範囲での検討を行った.具体的には32インチ及び45インチ相当の音源呈示状況の検討を行い,全体として外側方向へ視線方向が偏倚する傾向を確認出来た.その原因としてスピーカーを隠すための暗幕裏の両端部分がスピーカーは存在しないものの,被験者にとっては音呈示の可能性のある領域として視覚的に認識される可能性が明らかとなった.この点はシステム全体のコンパクト化を目指す際に重要な所見となった.すなわち暗幕によるスピーカーの遮蔽処理において,スピーカーのない範囲を多くとるとその領域が一つの視覚刺激として音源定位において影響を及ぼすという事実である.また左空間での処理能力の低下及び右への偏倚傾向はいずれの状況においても確認された. 次にデータ取得方法として,昨年度は音源呈示と同時に時間経過による視線の位置情報について,施行中の視線の動向の挙動が多く,安定した注視点をどのように定めるかが課題であった.これについては呈示中の視線角度の変化をグラフで視覚的に表すようにし,注視点の変更の推移を捉えるようにするとともに,本年度は時間経過に伴う位置情報の動画データも活用して,音源呈示中の視線の移動傾向を捉えるようにした.データ分析において数値データからだけでは,全体の視線方向の推移を視覚的に把握することには時間がかかる面があるが,実際の視線の動きを動画で確認することで視線の挙動をイメージしやすくなると思われた. 以上昨年度の65インチ相当音源呈示範囲を基礎として本年度は,32インチ及び45インチ相当の範囲での状況が明らかとなったので,進捗状況は概ね順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の検討では, 65インチ相当のTVモニター横幅を音源呈示範囲とした基礎データを得ることが出来た.そして本年度は32インチ及び45インチ相当の範囲での実験を実施し,左空間無視傾向,すなわち左空間での処理能力の低下及び右への偏倚傾向と言う健常人における共通性がいずれの状況においても得られた.また暗幕部分の範囲に基づく音源を呈示する空間の認知的枠組みの重要性も示唆される結果を得た.これは呈示範囲を狭くしたことにより,音源は呈示されず余白となった暗幕裏部分が音源定位において視覚的に影響を及ぼすというものである.コンパクト化するにあたり両側の余白部分が広いとその部分が視覚刺激となり,視線方向が外側へ向かう場合があることに配慮する必要性が明らかとなったわけである. 次年度はこの点についてデータを再検討し,場合によっては被験者を追加するなどして,健常人が外側へ偏倚する程度の基準範囲を明らかにし,健常人基礎データとしての許容範囲を検討していく予定である.さらに音源呈示範囲が狭くなるに伴い,被験者から音源への位置も短縮される.この点は臨床へ適応するためのコンパクト化にとっては重要な点であるが,音源への距離が近くなるに従い65インチの設定では音源位置は遠位空間であったのが,徐々に近位空間としてみなされ得るようになる.空間性注意の検討においては近位,遠位の空間の区別は重要であり,臨床例においては課題の達成度に違いが生じる場合も指摘されている.実験時の被験者の内観なども再検討し,どの設定が近位空間とみなされるか否かについても検討を加える.
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