研究課題/領域番号 |
21K11718
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
齋藤 誠 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80535021)
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研究分担者 |
磯辺 智範 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70383643)
呉 世昶 アール医療専門職大学, リハビリテーション学部, 教授 (10789639)
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 客員教授 (90241827)
柳川 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10312852)
佐藤 英介 順天堂大学, 保健医療学部, 准教授 (00439150)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 水素 / 運動 / 酸化ストレス / 非アルコール性脂肪性肝疾患 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 肝脂肪量 / 脂質代謝 / 水素水 / 高脂肪食 / ミトコンドリア代謝 / NAFLD / NASH / メカニズム / 遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)およびその進行型である非アルコール性肝炎(NASH)に対しては、患者側の理由を含め、治療の継続が困難となるケースが多い。そのような中、水素の医療利用に関する研究が飛躍的に進展している。水素は細胞自身の抗酸化力を高め、免疫機能の正常化を通じ、脂質代謝を活性化することが知られている。 本研究の目的は、ヒトNAFLD/NASHに類似した病態を呈する遺伝子二重欠損マウスを用いて、水素がNAFLD/NASHに与える影響を明らかにすることである。この研究結果から、NAFLD/NASHに対する治療継続や治療効果の改善への寄与が期待できる。
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研究実績の概要 |
不健康な生活習慣の積み重ねを原因とする非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は、飲酒歴がない、または飲酒量が少ないにも関わらずアルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害を呈する病態のことである。肝細胞に脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝と、脂肪沈着に加えて肝細胞の壊死・炎症・線維化を伴う非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)に大別される。NAFLD/NASHに対しては、運動療法、食事療法、投薬等の様々な治療法が取り入れられているが、患者側の理由も含め、治療の継続が困難となるケースが多い。 水素は細胞の抗酸化能を向上させ、免疫機能の正常化を介して脂質代謝を亢進することが知られており、現在では,水素の医療利用に関する研究が飛躍的に進展している。NAFLD/NASHの予防・治療の観点から水素が有する抗酸化作用により運動誘発性酸化ストレスが軽減することで、運動継続や習慣化につながると考えている。 本研究は、水素の抗酸化作用、さらには水素が生体防御関連遺伝子群を活性化する作用機序に注目した。NAFLDからNASHへの進行に対し、水素摂取による防御的役割(病態予防や進展抑制)および治療法の効果を明らかにすることを目的としている。水素摂取による治療法をNAFLD患者に適応した報告は少なく、水素が生体の構成要素であることから、副作用がない新たな治療法として臨床応用の可能性があると考えられ、本治療法を確立できた際には臨床的意義が大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
骨格筋における水素の影響を評価するため、マウス由来のC2C12筋芽細胞を使用した。この細胞を、培養により筋管細胞への分化を促進させた後、過酸化水素水を添加して酸化ストレスを誘導することで、水素の抗酸化効果の有無を調べた。実験では、PBSに溶解した水素を異なる濃度で添加し、細胞の生存率がどのように変化するかを観察した。その結果、水素濃度が高くなるにつれて細胞の生存率が向上する傾向が見られたが、実験ごとの結果にはバラつきがあり、その再現性については今後の課題とされた。 次に、この研究成果を基にして、人間における水素ガスの運動耐容能への影響を評価する臨床試験が行われた。倫理委員会の承認を得た上で、成人男性を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験が実施された。被験者は、2日間にわたって水素ガスまたはプラセボガスを1時間ずつ吸入し、その後エアロバイクを用いて指定された運動負荷を実施した。運動負荷は、被験者の体重の3.5%に相当する負荷であり、回転数は80 rpmを維持することを目標として設定された。運動試験は、40 rpmを下回るか、10分間達成した時点で終了とされた。 試験の間に、筋硬度、下肢筋力、乳酸値、βケトン値などの生理学的パラメータが評価された。運動試験の結果、運動継続時間、総回転数、走行距離が計測され、水素ガス吸入がこれらのパラメータに与える影響を分析した。しかし、10名の被験者から得られたデータを基にした統計的分析では、水素ガスとプラセボ間で有意な差は認められなかった。 この研究の結果は、水素が骨格筋に及ぼす影響についての理解を深める一助となり、特に運動時の生理的応答における水素の役割についてさらなる研究が必要であることを示唆している。また、運動耐容能に対する水素の効果には個体差がある可能性が示唆され、今後の研究においてはより広範な被験者群を対象とした試験が求められる。
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今後の研究の推進方策 |
運動は非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の治療の基本であり、運動不足の改善はNAFLDの予防にも繋がるとされている。この背景から、運動時の骨格筋の酸化的損傷を抑制し、運動の持続性を向上させる可能性を持つ水素ガスの効果に注目が集まっている。現在、水素の抗酸化作用を利用した臨床試験が進行中であり、その初期段階としてパイロットスタディを行っている。このスタディが終了次第、本実験を開始する予定である。 本試験では、2つの異なるプロトコルを用いて水素ガスの効果を比較する。一つは運動前に水素ガスを1時間吸入するプロトコルであり、もう一つは運動中に水素ガスを吸入するプロトコルである。後者のプロトコルでは、3分間のウォーミングアップ後に7分間の運動試験を実施し、その間に水素ガスを吸入する。これにより、運動前の静的な状態と運動中の動的な状態で水素ガスの効果を比較することができる。 さらに、運動前と運動後24時間において血液サンプルを採取し、酸化ストレスマーカー(TBARS、8-OHdG、高感度CRP)や疲労マーカー(CK、LDH、ALT、AST)、脂質代謝マーカー(NEFA、βケトン)を評価する。これらのバイオマーカーを用いて、水素ガスの抗酸化効果および運動に対する支援効果を定量的に解析する。適切な摂取タイミングの特定が可能になれば、これは水素の臨床への応用に貢献する可能性が高い。 この研究は、水素ガスが運動耐容能の向上にどのように寄与するかを明らかにすることを目的としており、特に運動を通じてNAFLDの治療や予防を図る上での新たなアプローチを提供する可能性がある。
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